【かずきふみのシナリオLife】人気シナリオライターが過去にプレイした理想的AVGを紹介!!　かずきふみ氏による連載コラム【第6回】

シナリオライターが考えるAVGの理想が形になった作品とは？

　前回「素材数とか気にせずシナリオを書いてみたい！」と書いたわけですが、実際のところ予算が無制限になったらどんなゲームを作るだろうか、とふと思いました。
　常々、理想の美少女ゲーム・AVGとはなんぞや、なんてことを考えてはおりまして、今回は「目標にしているけど予算や技術面の問題で真似できない……！」という作品を18禁の枠にとらわれず紹介しつつ、僕にとっての理想のAVGについて語らせてください。

■白詰草話-Episode of the Clovers-

　18禁の枠にとらわれずと言いながらいきなり18禁ではありますが、理想的な美少女ゲームを語るうえでこの作品は外せません。
　本作には、FFDシステム（FLOATING FRAME DIRECTOR SYSTEM）というシステムが搭載されています。
　非常にざっくり説明すると、シナリオを漫画のように読み進めるシステムです。クリックごとに漫画のコマや吹き出しが表示されていく、とイメージしていただければだいたいあっています。
　当時も今と変わらず、背景の上に立ち絵、画面下部あるいは全体にメッセージウィンドウ、という形式が当たり前でした。そんな中登場した本作のFFDシステムはあまりにも画期的で、とてつもない衝撃を受けたものです。

　個人的にAVGの完成形のひとつであると思っており、大いに参考にしたい……ところではあるのですが、FFDシステムは『漫画のように進む』という特性上、イラストを“シーンごとに”用意しなくてはなりません。つまり、（一部汎用的に利用するとしても）莫大な数の素材が必要となり、コストがとんでもないことになります。
　本作が発売して20年ほどたちますが、近いシステムを搭載している作品はほとんどないのではないでしょうか。
　完成形であるがゆえに、なかなか真似できないのです。

■十三機兵防衛圏

　この作品も、僕の中でAVGの完成形の一つとなっています。
　ただ物語を読み進めるだけではなく、キャラクターを操作し、誰かに話しかけたり気になるキーワードを選択し想いを馳せたりと、プレイヤーが介入することで非常に高い没入感を得られます。
　また、通常のAVGであればモノローグで説明しているところをキャラクターの動作で表現しているので、テンポのよさや臨場感も段違いです。

　まさに操作するアニメ、といった作品ですね。
　こちらも大いに参考にしたい……ところですが、言わば全編を通して立ち絵や背景を滑らかに動かし続けているわけですから、コストがとんでもないことになっています。
　やはり完成形であるがゆえに、簡単には真似できません。

■ウマ娘 プリティーダービー

　AVGじゃなくない？　と言われそうですが、メインストーリーなどは背景に立ち絵、画面下部にメッセージウィンドウと、非常にオーソドックスなスタイルです。
　ひとつ決定的に違うのは、キャラクターの3Dモデルのクオリティがとんでもなく高いことですね。
　演出面も凝っていて、キャラクターが3Dだからこそのアングル、カメラワークで物語が展開され、極めつけは大迫力のレースシーンです。完全にアニメです。
　今まで挙げた作品の中だとシステム的には一番参考にしやすいのですが、同等のクオリティの3Dモデルを用意しようとなると、１キャラあたりおいくらになるのでしょうか。そのうえ違和感のないモーションを作ろうとなると……。

　高クオリティ素材を前提にした企画は、きっと通らないでしょう。
　完成形であるがゆえに、その存在はあまりにも遠い。現実は残酷です。

▲かずきふみ氏がシナリオを手掛ける『クリミナルボーダー 2nd Offence』（Purple software）は連作モノのAVG。電子ドラッグムービーや反社組織が登場するなどアメリカのTVドラマを彷彿とさせるクライムモノで、新たなAVGの可能性にチャレンジした意欲作だ

　まだまだ紹介したい作品はあるのですが、キリがないのでここまでといたします。
　僕自身シナリオを書く際にテンポ感を重視しているためか、漫画やアニメ的な演出のAVGを「すごい！」と感じるようです。
　演出の幅が広がれば広がるほどモノローグでの説明を省けるので、非常にテンポがよく、臨場感のある作品になります。
　キャラクターの内面はテキストでしっかりと描き、その他は映像や音で描写してテンポよく物語を展開する。それが僕にとっての理想のAVGになるのかもしれません。
　コスト面でいろいろと難しい部分はやはりあるのですが、理想を忘れず、自分の思い描く完成形を常に追い求めていきたいものですね。
　いつか石油王が現れて、「予算は無限にあるから好きに作ってくれ！」と言われる日が来るかもしれないですからね！

　理想が叶う日を夢見つつ、これからも気合を入れて美少女ゲーム制作に取り組んでいきます！

←前回　　次回→
シリーズ記事はこちら

関連記事