
美少女ゲーム業界のキーパーソンにBugBug編集長・マス大澤が直撃する新連載企画がスタート!!
おかげ様でBugBug.NEWSは4月24日(金)で6周年を迎えることに。その記念企画で新しく、美少女ゲーム業界のキーパーソンにBugBug編集長・マス大澤が直撃する新連載企画「美少女ゲームガチンコ対談」がスタート!! 記念すべき第1回のゲストは、ケロQ/枕のSCA-自氏をお呼びしたぞ。SNSでの注目発言やイベントにも積極的に参加するなど、若いユーザーはもちろん世界的にもファンが多いSCA-自氏に、業界の気になるアレコレをたっぷり聞いたのだ。読み応え満載のぶっちゃけトークをたっぷり味わってほしい!!
美少女ゲーム業界についてのインタビュー企画が新たにスタート
SCA-自:どうも、よろしくお願いします。
マス大澤:こちらこそ急なお願いにもかかわらず、ありがとうございます。以前にソフ倫30周年記念座談会でご一緒させていただいて、あの時の話が非常に面白くて。ウチのネット企画BugBug.NEWSでも、新しく美少女ゲーム業界についてのインタビュー企画をやりたいと思いまして。
SCA-自:はいはい。
マス大澤:コンセプトとしては、普通こういう業界の取材だとクリエイターさんやメーカーの社長さんが多いんですが、流通さん、ショップさん、あと一番聞きたいのは美少女ゲーム業界を卒業していったクリエイターさんや絵描きさんたちなど、幅広く話を聞いていきたいと思っています。
SCA-自:引退したユーザーの話も聞けたら面白いですよね。Xとかで活動している現役ユーザーの中にも有名な方はいるし、業界を離れた一般ユーザーの意見も聞いてみたい。
マス大澤:それはなかなか難しいかも…(笑)。イベントなんかで意見を聞くのは面白いかもしれませんが。ということで今日は、美少女ゲームがなぜ盛り上がったのか、なぜ盛り下がってしまったのか、そしてもう一度盛り上がるためには何が必要なのか、そのあたりを探っていければと思います。
SCA-自:ちょっと確認なんですが、これネット記事になるんですよね。
マス大澤:はい、ネット記事です。
SCA-自:話が海外の話にもなると思うので、海外ユーザーさんが簡単にアクセスする可能性があるかどうかで、間違って伝わらない様に注意しないとなぁと思いまして(笑)。
マス大澤:もちろんです。その辺りは記事化の際にケアします。では始めましょうか。
▲「ソフ倫30周年記念座談会」の「【前編】」と「【後編】」はMoepedia(モエペディア)の「業界ブログ」コーナーにて公開中だ
美少女ゲームの「黄金期」はいつ?
マス大澤:まず美少女ゲームのいわゆる「黄金期」というのはいつ頃だったと思いますか?
SCA-自:これはほとんど全員が一致する話で、ゼロ年代初頭となるんじゃないですか。データ上も、パッケージの売上もそうだし。KeyさんやTYPE-MOONさん……今のTYPE-MOONさんといえばまずみんなが思い浮かべるのは『FGO』だと思いますが、その『FGO』が一時期ソニー全体の売上を下支えしていたほどの規模のIPを生み出したのが、美少女ゲームの黄金期です。否定する要素もないですし、当時の体感からすると、ありとあらゆるオタク文化の中心だったし、それは間違いないでしょうね。
マス大澤:IPが強かったというか、オタク文化の最先端にいた時代ですよね。
SCA-自:美少女ゲームがなぜあれほど隆盛を極めたかという話なんですが、ほぼなろう系の小説と同じ構造だと思っているんですよね。それまでのクリエイターって、出版社なり何かしらの関門があって、そこを越えない限りプロになれなかった。昔の編集は絶対的に正しいみたいな空気があったし、美少女ゲーム業界においても初期の頃は雑誌さんがめちゃくちゃ強くて、出版の力は非常に強かったと思うんですよ。
マス大澤:いやいや(笑)。
SCA-自:たしか麻枝准さんや虚淵玄さんなども、小説の新人賞に応募していたと読んだ記憶があります。それでもデビューできていなかった。イラストレーターについても、当時はプロとして生きていくのは難しくて。私の世代でいうと、有名IPの機動戦士○○○○なんかのトレーディングカードのイラストを一枚5,000円で依頼されるとか普通の時代だったんです。
マス大澤:そうですね。自分も出版社なんで、耳が痛いですけど。
SCA-自:(笑)。カット1枚が大体5,000円とか1万円の時代だったんですよ。僕自身にファミ通のバイト話が来た時も5,000円ぐらいだったと思いますし、生活できるようなものじゃなかったですよね。
マス大澤:ええ。
SCA-自:そんな中で、Windows95以降でドット打ちじゃなくゲームが作れるようになったのはかなり大きくて。それまでのドット絵と手描きのドローイング系イラストとでは差があって、90年代後半からコンピューターで絵を描くのが流行り出して、インターネットで自分のサイトに上げるという行為が出てきたんです。それを『カラフルピュアガール(※注1)』がハイエンド系という位置付けでイラストレーターとして発表したんですね。
マス大澤:ありましたね、ハイエンド系。
SCA-自:そのぐらいから、今まで漫画家の副業みたいな感じだったイラストレーターという職業が、だんだん独立した職業として認知されていって。Windowsでフルカラーのゲームが作れるようになったのと合わさって、参入障壁がめちゃくちゃ低かったんですよ、当時は。
マス大澤:その時代の中では、ということですよね。
SCA-自:ええ。当時は同人を作るくらいなら商業にしてしまえという会社も出てきていて。もともと同人ゲームを作るために集まったのが、集まる過程で「商業にしちゃえ」という話になって、そのまま商業化したメーカーもあったと聞いています。出資してくれる会社さんも多くて、かなり参入障壁が低かった。同人から成り上がったゲームメーカーさんって結構多いんですよ。
マス大澤:ええ。
SCA-自:他にも異業種から「ノベルゲームが受ける」と言って参入してきたメーカーも多かった。つまりいろんな才能のある人たちが、それまでは編集部や外部の第三者に「良い悪い」を決められていたものを、いきなり市場に直接投入できるようになった。価値があるかないかを直接試せた商業的なムーブメントの最初が美少女ゲームじゃないかな。
マス大澤:同人から商業への流れを後押しした出資について、具体的にはどういうところがやっていたんですか?
SCA-自:いくつかあるのですが、精力的にやっていたのはTGLさんではないでしょうか? TGLさんのパートナーブランドから、かなり多くのブランドがデビューしていると思います。
マス大澤:確かにTGLさんは同人の若いサークルをスカウトしていましたよね。スカウトだけじゃなく出資という形でも参入障壁の低さを支えていたわけですね。
SCA-自:やはり、金銭的な支援は結構でかかったと思います。
マス大澤:なろう系と同じだというのは僕も思っていて。ボーカロイドとか今だったらVTuberもそうだと思いますが、オタクジャンルが盛り上がる過程で参入障壁の低さというのは重要ですよね。
SCA-自:まさにその通りだと思います。
マス大澤:今だったらマネタイジングの方法も色々ありますが、当時はネットの投げ銭もクラウドファンディングもなかったわけで。商業としてリアルなフィジカルなもので流通させるとなると、ゲームが一番やりやすかったという感じなんでしょうか。
SCA-自:たぶん、ネット回線の太さとエロゲって深い関係があると思っていて。90年代はまだインターネットの黎明期で有線のネット回線ですらかなり貧弱だった。あの頃はいわゆる草の根的な場所でしか会話が出来なかった。それもゼロ年代に少しそれが改善されて、多くの人がネットで情報のやり取りが出来る様になったけれども、この時代は良い噂も悪い噂もあっという間に広がった。さらに回線が太くなると、話題よりも先に、作品そのものがネット上を簡単に行き交う様になっていきました。
マス大澤:はい。
SCA-自:美少女ゲームの隆盛をROMというメディアがあったからこそと捉えるなら、ネット回線とともに話題性を獲得して多くの人に知られたのだけど、それは有線で繋がったPC前提の回線速度だったからこそ、メディアとして最も適していた。現在の回線速度は、Wi-Fiや光回線が主流な時代なわけで、もはや端末がPCである必然性がない。それどころか、もっと手軽に消費出来る媒体が多く存在する。マネタイジングの方法が各種プラットフォームによって千差万別選べる。そんな世の中でエロゲという立ち位置は、かなり微妙ではあると思います。
マス大澤:なるほど、すごく分かりやすい。
※注1:『カラフルピュアガール』。ビブロスから刊行されていた美少女ゲーム雑誌。最先端のクリエイターに特化した尖った内容が魅力だった
▲2023年発売の『サクラノ刻 -櫻の森の下を歩む-』は名作『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』の続編。SCA-自氏が手掛ける完全新作ということで話題を集めた
美少女ゲームならではの魅力とは?
マス大澤:なろうにはなろうの、ボカロにはボカロの魅力があると思うんですが、美少女ゲームならではの魅力、黄金期を迎えられた秘訣というのは何だと思いますか?
SCA-自:初期のゼロ年代の頃は、美少女ゲーム的な文脈って美少女ゲームでしか味わえなかったんですよ。女の子がすごく可愛くて、いろんな展開があって、音楽がある…。『Fate/stay night(※注2)』が出た時は演出が本当にすごくて「これアニメいらないんじゃないの?」くらいの衝撃だった。買い切りで40時間ぐらい遊べてしまうというところもあって、当時は美少女ゲーム的な文脈っていうのは美少女ゲームでしか味わえなかったんですよ。
マス大澤:はい。
SCA-自:ただ、その美少女ゲーム的文脈はすぐにラノベに流入して、ラノベに流入した後はアニメ化され、普通のゲームやソシャゲも含めてどんどん拡散していってしまった。美少女ゲームの女の子の可愛さというのは、今となってはアニメだけじゃなく、小説や映画も含めて「これって美少女ゲームの文脈だよね」というものが当たり前になってしまった。
マス大澤:小説なんか、一般のラノベだけじゃなくて普通の文学にも美少女ゲームのビジュアルっぽい、透明感のあるイラストのカバーがついていたりしますもんね。
SCA-自:実際そうだと思います。ちょっと私自身が思ったことで言うと、『エヴァンゲリオン』ってあるじゃないですか。95年前後の『旧エヴァ』から『新劇』の『エヴァQ』が来る前あたりの盛り上がり方、ユーザーが喜んでいた時期に、業界内でよく言われていたのが「なんか美少女ゲームっぽいよね」ということで。
マス大澤:(笑)。
SCA-自:ループしてそうだし、世界が並行宇宙っぽいよねみたいな。垢抜けた感がすごくあったんですよ。
マス大澤:確かに。
SCA-自:逆に初期の『旧劇』が好きな人からすると、明るくて前向きな感じが好きじゃないという人も多かったんですよね(笑)。だからゼロ年代を超えた前後で、同じIPでも文脈上の変わり方がすごく大きいんですし、そのぐらい美少女ゲームの影響力は強かったと思っています。
マス大澤:なるほど。
SCA-自:例えば今の小説って、ゼロ年代の小説より格段に読みやすいんですよ。それは美少女ゲーム的文脈の話ではないんですが。
マス大澤:ラノベにしても、富士見ファンタジア(※注3)とか古き良きものと、美少女ゲームが流行った後のラノベとでは、読みやすさが全然違いますよね。
SCA-自:エロゲ隆盛以前のラノベ、たとえば『スレイヤーズ(※注4)』とか『ロードス島戦記(※注5)』の頃と比べると全然読みやすい。
マス大澤:『ロードス島戦記』、今読むと文体が硬く感じますもんね。今は会話中心だったり改行のテンポが速かったりするのは美少女ゲームの影響が強いのかもしれないし、それはラノベだけじゃなく普通の文学にも広がっている気がします。
SCA-自:そういう意味では、美少女ゲームならではの良さが他に拡散していってしまったというのは、どうしようもないことじゃないかな…という気がします。
マス大澤:美少女ゲームならではの良さというのは、テキストだけじゃなくてイラストや音楽、いわゆる総合芸術としての体験だったということですよね?
SCA-自:そうですね。一番わかりやすい部分でいうと、その後にアニメが動いて綺麗になって、CGを使うことで太刀打ちできなくなってしまった。『Fate/stay night』も実際アニメにできてしまっているし。美少女ゲームのもう一つの良さって、クッソ長いというのがあって。アニメで1年とか2年とかかかりそうなものを、一つの作品としてできた。
マス大澤:文庫本にしたら何十巻にもなるようなストーリーを、音楽やグラフィックと合わせてすごい没入感で長時間どっぷり楽しめる。それは美少女ゲームならではの良さなのかなと思います。
※注2:『Fate/stay night』。TYPE-MOONより2004年に発売された18禁PCゲーム。その後TVアニメ化もして、やがては『FGO』を生む大人気シリーズに。
※注3:富士見ファンタジア文庫。1988年から続くライトノベルの元祖的存在である文庫レーベル。現在は株式会社KADOKAWAが発行
※注4:『スレイヤーズ』。1990年から続く神坂一氏によるライトノベル作品。あらいずみるい氏がイラストを担当。
※注5:『ロードス島戦記』。1988年から続く原案・安田均氏、著・水野良氏によるライトノベル作品。元はTRPG。
▲SCA-自氏のデビュー作は1999年発売の『終ノ空』(ケロQ)。現在は最新版の『終ノ空 remake -2025ver-』が2025年7月発売の『素晴らしき日々 〜不連続存在〜 15th Anniversary edition』に収録されていてプレイできる
いまが衰退する一方かというとそういうわけではない
SCA-自:美少女ゲームの黄金期は黄金期としてあった。では今の我々がいる地点は没落していく一方なのかというと、実はこれが結構難しくて。うちの会社はちょっと逆で、今が歴史上で一番業績がいいんですよ。今までにないぐらい。
マス大澤:えっ、そうなんですか。
SCA-自:その理由は海外なんです。ノベルゲーム自体がここ10年ぐらいで認知度を世界的に上げている。
マス大澤:はい。
SCA-自:でもさっき言っていた没入感って、実は諸刃の剣でもあって。今のIPビジネスというのは基本的に可処分時間の奪い合いで、お金を落とさなくてもいいから時間だけ奪おうとするもので。VTuberもソシャゲも、効率的に時間を奪えるように設計されています。
マス大澤:時間さえ奪えば、後からそのビジネスモデルはついてくるだろうみたいなのは、確かにありますね。
SCA-自:そうそう。それに対して美少女ゲームは、最初から時間を奪うことが前提ですよね。
マス大澤:確かに(笑)。フルプライスなら特にそうですね。
SCA-自:ただ、その「長い時間をかけて体験する」ということが、今逆に「体験を売る」という形で強みになってきているのだと思うんですよ。
マス大澤:ははぁ。
SCA-自:美少女ゲームってカルト的なものだから、自分が好きなゲームでアイデンティティを語れる部分がある。今の時代は読書すら自分というキャラクターを語るツールになっていると言われていて、純文学なんていまや一般教養ではなく、自分のアイデンティティを語るものになっている。この様な時代で、本来ならば時間がかかることは市場原理的にはマイナスなはずなのだけど、あえて深く没入するために長時間かかるノベルゲームをプレイすることや、それらのグッズを沢山買ってコスプレするということは「自分がどんな人間であるか」を語ることになるし、それらは同じ感受性を持つだろう人々と繋がることができる。同じ感受性の人との繋がりで得られる体験は、今の時代において貴重だと思っています。実際、体験型の消費のされ方がここ数年、我々の業界でも強まっていますし。
マス大澤:なるほど。
SCA-自:ここ2~3年で、中国のTikTokで美少女ゲームのコスプレをするインフルエンサーが結構流行っているんですよ。地雷系ファッションと美少女ゲームという組み合わせが、TikTok・地雷系・美少女ゲームという三点セットとして「自分というキャラクター」を語るツールとして機能していると思うのです。
マス大澤:はい。
SCA-自:これは中国だけの話じゃなくて、『素晴らしき日々』のコスプレをしている方々の、Xのアカウントがあるサーバー先を見ると、本当に世界中に分布しているんです。東西のみならず、北半球だけじゃなくて、南半球にも、世界中まんべんなくコスプレされている。西洋だとゴス系の格好をした女の子が多い。東アジアだと地雷系ファッションの娘が多い。たぶん、そういうアイデンティティの女性と美少女ゲームの相性が良いのだと感じています。
マス大澤:なるほどなぁ。
SCA-自:『素晴らしき日々』は10年近く前にローカライズを始めたんですよ。だいたい発売した頃に対して、今では毎月当時の5~10倍ぐらいの売り上げが出ている。
マス大澤:利益でですか? それはすごいな。
SCA-自:Steamでノベルゲーム全体が注目されていく中で、うちの作品が一定の評価を受けていて、どんどん広まっていって。
マス大澤:そういう意味で、御社の作品は海外でのノベルゲーム認知拡大の恩恵をいち早く受けているわけですね。
SCA-自:はい。もちろん円安の影響もあるんですが、それだけじゃここまでは説明できない。Steamのノベルゲームのタイトル数がめちゃくちゃ増えていて、ノベルゲームが一定の評価を受けている。でもその一方で、数が増えているから「選ばれる作品か選ばれない作品か」という二極化が絶対に起きると思うんですよ。
マス大澤:ええ。
▲『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』はSteamでは『Wonderful Everyday Down the Rabbit-Hole』というタイトルで海外向けに配信されている
世界に広がる美少女ゲームの魅力
SCA-自:昔は美少女ゲームって一年に二本から三本ぐらいのペースでリリースして数にものをいわせて利益を出すという形でしたが、今は同人やインディーズゲームも含めてノベルゲームの数が尋常ではないんです。だからメーカーが数で勝負しても赤字しか積み上がらない。そうすると、メーカーとして生き残るには、市場から選ばれるビジュアルノベル、ユーザーが「好きである自分」を語れる様なビジュアルノベル作品というものでないと、作っても赤字になってしまう。もちろんこれは非常に難しい経営的な話ではあるけれども、もし仮にそういう作品を作ることが出来れば、海外展開をすれば、10年経ってもユーザーが選び続けてくれるという側面がある。
マス大澤:なるほど。
SCA-自:これまでは強いIPを作ったら大規模なメディアミックス化をしていかないと、長く愛される作品になりづらかった。けど今はさほどメディアミックスされていない作品の方がカルト的な価値を保持して、それによって根強いファンを獲得する事例も多い。FAVORITEさんの『いろとりどりのセカイ(※注6)』の二階堂真紅なんて、特にアジア系の海外で根強いファンが多くて、ファンアートもかなり多い。
マス大澤:御社の作品もオリジンみたいな、エヴァーグリーンの傑作みたいな形で、ワールドワイドにどんどん広まっていて。それが御社の好調に繋がっているんですね。
SCA-自:そうですね。
マス大澤:確かに美少女ゲームは、そういう昔の隠れた傑作のようなものはまだまだたくさんあると思いますので、新作を出すのではなく海外に向けてそういう作品をブランディングして戦っていくというのは、聞いていてアリな気がしました。
SCA-自:ただ個人的に思うのは、過去作品にしがみついているだけでは未来が明るくない。これはウチに限らずなんですが、できれば各メーカーさんも、利益が出たら新しいIPに開発費を回すなりして、次の名作を作るようにしてほしい。逆に言うと、一作品ちゃんと当たるものを作れれば、十数年生きられるモデルになるわけで。
マス大澤:本当にそうですね。
SCA-自:ただし話題にならないものは、初速から5年後も本当に低い水準のまま変わらないです。全然違うものになってしまいます。
マス大澤:ははぁ…。
SCA-自:「こういうものが売れている」とか「こういうものは売れない」という自分の経験則だけでゲームを作ること自体がかなり危険だと思います。だからといって好き勝手に作ればいいというわけではなく、もちろん市場のニーズには敏感であるべきです。市場のニーズは分析しつつも、分析でわかった気にならず、そこから自分達が本当に「良いと思うもの」を作らなければならない。今の時代は「自分が面白いと思うもの」を作ることが大前提で、さらにその上で自分たちを取り巻く現状、SNSやYouTubeやTikTok等、それらがどう作用しうるか。すべてを想定しろとまでは言わなくても、肌感覚としては今の時代性を分かってないといけない。
マス大澤:売れる売れないじゃないですよね。確かに。
SCA-自:あと、これは美少女ゲームだけの話じゃなくて、日本のIP全般に言えることなんですが、世界的な消費行動のルールが変わる瞬間というのが確実にある。そのルールが変わった途端にそれまで低評価であった日本の古いIPが海外でめちゃくちゃ評価されることがあるんですよ。今まで日本文学で世界的に売れていたのって村上春樹なのですが、その理由が、村上作品ってどこの国で読んでも同じように読める「無国籍的」な感じが評価の理由とされていた。それに対してたとえば、太宰治は「私小説的な閉じた世界」という扱いで、村上春樹との対な関係みたいに語られがちだった。
マス大澤:はい。
SCA-自:近年になって太宰治は英語圏で新訳・再刊が相次ぎ評価がかなり変わった。それまでは自分の悲劇性な告白をする作家の様に読まれがちだったのが、自己嘲笑と滑稽味、つまりもっとポップでユーモラスな部分で再評価されている。鋭い自己意識をもちながらも、風刺・軽み・自作パロディを使える喜劇的作家というのは、ある意味で、現代的なSNS的ふるまいに近い。自己演出・自虐・道化・読者への目配せという太宰的な書き方というのは、多くの人々の日常性と合致しやすいわけです。もちろんもう一つの再評価の理由として『文豪ストレイドッグス(※注7)』や『UN-GO(※注8)』などアニメの影響もありますけど。
マス大澤:なるほどねぇ。
SCA-自:『ONE PIECE』も初期は海外で売れていなかった。これを『NARUTO -ナルト-』の世界的なヒットと対比させて、当時の評論家なんかは、「海賊は海外においてリアルな存在だから、『ONE PIECE』のチープな海賊像などウケない」とか言っていた。それが十数年後にどうなったかは、みんな知っている通りです。世界各地の抗議デモなどで『ONE PIECE』の海賊旗がシンボルとして使われたりするぐらい象徴的な漫画となった。
マス大澤:海外でもすごい人気ですよね。
SCA-自:日本的なものが「日本人にしか分からない」と考えるのは危険だと思っていて、これをポジティブに「日本でしか味わえない」と変換出来れば、聖地巡礼や体験型のコンテンツになりえる。要は商売のルールというのはいくらでも変わる。この業界の話ではないのですが、たとえば日本の企業であるROUND1が米国でかなり成功しています。そもそも米国の郊外には若者や家族向けの安全で長時間遊べる屋内娯楽というものが非常に少なかった。そんななかで大型ショッピングモールの空き区画が大量に出始めた時期があり、ROUND1はそういう場所に、日本式アーケード・クレーンゲーム・ボウリング・カラオケ・飲食・アニメIPをまとめて持ち込み、モール再生需要と若者娯楽需要の両方を取って成功させた。これは「日本でしか味わえない」ものを、「日本的に米国人が楽しめる」ものとして前提から変えてしまったわけです。
マス大澤:まあでも、メーカーさんにとっては会社的に新作を出して回していかないとみたいなのもあると思いますので、なかなか難しい部分もあると思いますけど。美少女ゲーム本来の意義とかを考えると、商業性よりもクオリティや作品性みたいなところに焦点を置いた方がいいってことなんですかね?
SCA-自:と思いますよ。初めに言った通り、なんで美少女ゲームが隆盛したのかっていうのは、参入障壁が低いこと。編集がいないわけなんで、自分たちがいいと思う作品を作っていったからです。数があったから、まあ淘汰されたって部分もあるんですけど。「自分がいい」という作品ありきで作っていったから、魅力的だったわけじゃないですか。それがだんだん会社として回さなきゃいけないっていうことになってくると、だんだんその美少女ゲーム的な面白さっていうのが失われてきて、同人側の方に客は行ってしまいますよね。
マス大澤:確かにそうなっちゃっています。
SCA-自:でも同人も実は売れてるとこって、もうここ10年ぐらいあんまり変わってないんで。そうすると同人も売れるもののために、次の作品も売れるものにしなきゃいけない。そうすると、今度はSteamにおけるインディーズゲームみたいに、自分勝手に作ってるやつに「お」って注目が集まっていく…みたいな感じで。どうしても商売にしてる以上は、売れるものを作らなきゃいけないし、回さなきゃいけないっていうのは、確かにそのとおりなんですよ。だからうちの会社も新作で仕込んでるものに関しては、かなり今までの作品よりも売れるだろう仕掛けで作っています。
マス大澤:バランスですかねぇ。
SCA-自:バランスですね。
※注6:『いろとりどりのセカイ』。FAVORITEより2011年に発売された18禁PCゲーム。
※注7:『文豪ストレイドッグス』。原作・朝霧カフカ、漫画・春河35によるコミック作品。文豪が多数登場する異能バトルが特徴。2016年にはTVアニメ化された。
※注8:『UN-GO』。2011年放送のオリジナルTVアニメ。坂口安吾の小説をモチーフにした世界観が話題に。
▲こちらはBugBug2025年3月号で「ソフ倫30周年記念座談会」を紹介した際にケロQ/枕を紹介したもの。BugBug.NEWSでダイジェスト記事も見られるぞ
何が次に売れるのかなんていうのは誰にも読めない
マス大澤:編集がいなくて作り手が自由なものを出せるのが、昔の美少女ゲームや今の同人やインディーズの魅力だという話だと思うんですけれども。美少女ゲームも昔に盛り上がってきた時に、出資元である流通さんが「こういう作品が売れるからこういう風にしろ」など編集的なことを言ってたみたいな話とかも聞くんですが、そういうのは御社はこれまでなかったんでしょうか? やっぱりそういうのは跳ね除ける感じで?
SCA-自:それはうちの会社が一切どこからもお金を借りていないからです。スタートから今まで、銀行も含めて一切受けていません。
マス大澤:あぁ、それでずっとやってこれたんですね。
SCA-自:それがでかいです。流通からお金を借りるべきではないというのが私の持論で。そうしないとクリエイティブな部分への口出しが始まる可能性が生まれますから。
マス大澤:いやいやそうなんですよ。参入障壁とかの話になると、やっぱりそういうお金の部分も出てきてしまう。いまだとコンサルとかも流行っていますが、作品の中身やクオリティに素人が口出しするのも考えものですよね。
SCA-自:本当にそうですよね。例えば美少女ゲーム会社でも、社長しかやってきていない人が作品に口出しするのは、私はどうかと思います。
マス大澤:まあバランスもありますよね。映画とかで言うと、カルト的なものとハリウッド的なものでは、プロデューサーもやっぱり違って売れるものを求めるでしょうし。
SCA-自:我々の世代が思う「売れるものの象徴」であるハリウッドですが、そのハリウッドのワーナー・ブラザースですら親会社から経営不振で、右往左往しています。ある意味で売れるもの的な象徴を「ハリウッド的」と言ってしまうことが、我々の世代が持っている昭和的な部分で、それをなんとなく「変わらない秩序」だって思い込みがどうしてもあるんじゃないかなぁと思ったり。
マス大澤:確かに。大きな物語みたいな感覚ですよね。
SCA-自:そうですね。5年ぐらい前だとそこまで状況が変わった感はなかったんですが、今はかなり変わっている。「これが勝ち筋だ」と思っていたものが、実は勝ち筋でなくなっている可能性もある。ROUND1はアメリカで大ヒットして、『鬼滅の刃』がアメリカのコンテンツ売上上位に入っていて、かつて「日本的なものは海外では通用しない」とされていたものが世界基準になっている。日本のオタク文化が世界的に拡張していく流れはビジュアルノベルだけでなく広がっているが、一方でオタクとそうでない人の分断は強くなっている。そういうグローバルな変化の中で、何が次に売れるのかなんていうのは、誰にも読めないんですよ。
マス大澤:そういう中で美少女ゲームというのは、今のオタク文化の原点みたいなところもあると思うので、世界的に再評価されていて。御社のようにエバーグリーンな名作を出しているところには、もうすでにその影響がすごく来てるっていうことなんですかね。
SCA-自:そうですね。あとはやっぱり雑誌社さんとか媒体がその辺で閉じ続けてしまっているのは、でかいとは思いますけどね。
マス大澤:いや、そうなんですよね。これはぜひお聞きしたいんですけど、BugBug.NEWSも海外に打って出るってなると、じゃあ翻訳どうするんだとか、やっぱりそういう話になってしまって。先ほどの会社としてどう回していくか、みたいな話になってしまうんですよね。
SCA-自:今はでも日本語でも全然大丈夫ですよ。日本語でも勝手に翻訳機能使って読めますので。
マス大澤:確かに、Xとかでもフォロワーさんとか見ると、すごい海外の方がバーって出てきたりするので、見られているとは思います。
SCA-自:うちの会社が海外で需要が高かったのって、実はかなり初期の頃からSNSの自分のアカウントで海外の人からのリプとかに結構丁寧に返したりとかしてたんですよね。だから10年ぐらい前には国内のイベントでサイン会とかすると、半分以上はサイン書く相手の名前が日本人じゃなかったんです。ボクは当時も今も日本語しか喋れないですし、当時は翻訳ソフトもあまり精度は良くなかったんですが。それでも、海外の人も同じエロゲユーザーだっていう感じで接すれば、だいぶ違うと思いますよ。
▲フロントウイング×枕の豪華コラボで話題を集めたANIPLEX.EXEのデビュー作『ATRI -My Dear Moments-』では、SCA-自氏はアートディレクターを担当。TVアニメ化もされる大ヒットに
BugBugもYouTubeに参戦すべき!?
SCA-自:作品を消費することで形作られるアイデンティティみたいな話をしたじゃないですか。村上春樹や太宰とかもそうなんですけど、最終的に作品がユーザーのアイデンティティの一部になるためには、作品だけじゃなくて批評もセットにならなければいけないと思っているのです。だけど古くから日本って批評と批判と否定がごっちゃになりがちで、批評する場合、作品を上から目線で……いやたぶん本人達は「俯瞰」のつもりなのでしょうけど、どうも否定的に描きがちなのですよ。
マス大澤:わかります。
SCA-自:だけど、今の時代に作品の悪口なんて読まされてもダルいだけだし、時間の無駄でしかない。それこそ批評文を読むのだって可処分時間を奪う行為なのだから、その時間だって意義のある時間にした方がいい。だから「エロゲってこういう風に楽しめるぜ」とか「こういう風に楽しもうぜ」みたいなものや「こういう風に楽しんでる人いるよね」みたいな共感性みたいなものを、海外の人も含めて記事にしてくれるだけでだいぶ面白いと思う。いまは美少女ゲームのユーザーってめちゃくちゃ国際色豊かになっているのですが、そういうことをちゃんとやってくれる媒体ってないじゃないですか。
マス大澤:ないですねぇ。
SCA-自:ないわけですよ。そして、そういう人が来るのをこちらから待っているんじゃダメだと思うわけです。こういうサイトみたいな場所でちゃんと文章にするのも大事だけど、それじゃ人は来ない。Xももちろん悪くないですけど、やはり王道ではYouTubeの様な媒体が一番いい。長文は読まない人多いけど、長い尺の動画はまだ見てくれる。もちろんTikTokみたいなもので人を楽しませる様なコンテンツを作れるのが一番イイけど。
マス大澤:いや、YouTubeはマジでやりたいんですよ。僕自身が批評家っていうのはおこがましいんですが、まぁ業界の重鎮と言いますか、映画で言う淀川長治さんみたいな立場の人が、美少女ゲーム業界にいないなと思ってて。なんかそういう感じで、もうちょっと表に出ていくと良いのかなと最近思ってて。
SCA-自:それは大事ですよ。その時に結構参考になると思うのは、高級腕時計専門雑誌の『クロノス日本版』です。
マス大澤:はいはい。
SCA-自:雑誌の編集長が広田雅将さんという方なのです。高級機械時計なんてニッチなジャンルで、雑誌なんか絶対に維持出来なさそうなのに。それをこの方はちゃんと成立させているわけですね。で、彼が言っていたのが、まずYouTubeとかに顔出さなきゃダメだと。YouTubeとかXとかで発信する気概がないんだったら、もう情報メディアとしてやっていくのは無理ではないかと。広田さんは時計ハカセと言われるぐらい時計にとんでもなく詳しい人なんですが、硬い文章だけじゃなくキャラクター的な立ち位置を文章から動画まで、非常にうまく演じている。ボクは情報系メディアの存続には、識者と言われる人がどれだけキャラクターとしてアイコン化出来るかにかかっていると思っているのです。とぼけたキャラクターだけど、実際はめちゃくちゃそのジャンルには詳しいという専門家は、美少女ゲームだけじゃなくて、どのジャンルでもウケがいい。
マス大澤:なるほど。
SCA-自:もし仮に日本にある美少女ゲームの老舗のBugBug編集長であるマス大澤さんが、BugBug出張YouTubeチャンネルに出演してて、編集長として自身のXアカウントもやっている。海外のエロゲユーザーなんかが喋ってたりしたらちゃんとリプライを飛ばす。なんならユーザーの名前もちゃんと覚えてあげる。そこまで出来たら、BugBugという雑誌は全然戦えると思いますよ。もちろんそれ自体はお金にはならないと思うんですよ。ただ、お金にならないことでもやっていかないと今の時代はやっぱり難しいんじゃないかな。端的に言えば美少女ゲーム雑誌は何冊もいらないとは思うんですけど、もし仮に一冊だけ世の中に美少女ゲーム雑誌があるとしたら、その知的遺産は、他の配信者などにはない特別な価値であるわけで、貴重な存在とも言えるわけです。
マス大澤:確かに。
SCA-自:その時にやっぱりYouTubeとX。で、もう一つあるのは、出てくる人のキャラクター。だから編集長、歳は僕と同じぐらいだと思うんですけど、やっぱり若手も、YouTubeに出たい人だと思うんですよ、20代の子は。
マス大澤:いやー、どうですかね。最近の若手編集は取材の顔出しすら嫌がりますからね。僕らの若い頃はナンパ雑誌のハメ撮り企画みたいなところに、現場のノリで出させられたりしてたんですけど(笑)。
SCA-自:いや、そんな話はだれも聞いてないし(笑)。
マス大澤:おっしゃることは凄く理解できて、おそらく『クロノス日本版』さんは編集長が出てくることでブランディングして、それが多分タイアップとか広告とかのマーケティングにもすごいなってるんだと思います。そちらで結構マネタイジングができてるんだと思うんですよね。
SCA-自:エロゲーならFANZAさんとか?
マス大澤:そうそう。僕ら雑誌やネットニュースのマネタイジングの基本って、タイアップ案件とかが大部分を占めるんですが、やっぱり今の広告媒体のメインが、SNSの広告とYouTubeとかのタイアップ動画とかになってしまっているので。そういう意味でもね、早くやりたいんですけど、なかなか手が回んなくて。まあでも言うてらんないから、もうちょっと勝手にやりだそうかなと思ってるんですけど。
SCA-自:いいんじゃないですか。例えば音泉さんなんかも、YouTubeとか全然出したりしないんでもったいない。自分独自のメディアにこだわりすぎちゃってる気がします。
マス大澤:こだわりすぎっていうか、自分たち出版界なんかは、もうそれが制度化しちゃってるんで。だからちょっとそれは良くないなぁとは思っていて。ただ出版界だと、もうネット企画やっただけでも「すごい」って言われちゃう(笑)。昭和な感じなので。
SCA-自:でも、こんな企画とかをやったりするぐらいなんで。この辺のことって、ぶっちゃけ20代の若い子のエロゲーマーも、やっぱ全部興味のあることなんですよ。
マス大澤:ええ。定期的にSNSとかまとめサイトとかでまあ話題になったりしますよね。Whirlpoolさんが次が最終作とか言うと、また「エロゲー終わった」みたいな感じで、何が原因だの考察し合ったりとか。自分もああいうのすごい読んじゃうんですけど。そういうのを業界の当事者というかレジェンドたちに、どんどん聞いていきたいなみたいな感じです。いや、非常に面白いですね。新作を仕込んでいるっていうのを聞けただけでも本当よかった(笑)。凄く期待してますんで。
▲新たな『サクラノ』シリーズも書いているというSCA-自氏。こちらは現在の最新作『サクラノ刻 -櫻の森の下を歩む-』だが、新たな感動を早く味わいたい!!
業界全体で最新の情報を共有する必要がある
SCA-自:ユーザーからすると『サクラノ』シリーズを書けって話なんですけど。まあ『サクラノ』シリーズも書いてはいるんですけど、もともと僕がずっと同じことだけやってるっていうのがあんまり好きじゃないんで、やっぱり違うIPを作りたいなって感じです。
マス大澤:御社にある歴史的名作、自分たちが持っているIPの名作を、何周年記念とかですごい豪華にして出すっていうのも、あれはあれで古くて新しいというか。ロックだとビートルズが何周年とかって、すごい豪華版とかよく出たりするんですけれども。ああいう感じですごいコアなファンに向けて売っていくみたいな形っていうのも、美少女ゲームはそういう名作はいっぱいあるので、もっとどんどんやってもいいのかなと思います。
SCA-自:そうですね。ただあれも諸刃の剣で、あんまり出しすぎるのは確実にマイナスではあるのです。けど、やっぱりパッケージメディアって物体そのものであるってことなんで。物体性にフォーカスして、プレミアム感のある物体で持ってることに特別性を持たせるっていうことは、他のメーカーはもっと重要視した方がいいとは思います。中古がプレ値になっているパッケージゲームは多すぎますから。
マス大澤:ええ。
SCA-自:ただ、これも過去の名作や怪作と言われるものに限って、権利関係がぐちゃぐちゃになっちゃってるので、再版そのものが出来ないことが多いという。
マス大澤:確かに…。そういうのをこう業界挙げてやっていくようにするっていうのも、できるんじゃないかと思うんですが。
SCA-自:それも一つの手だと思いますよ。
マス大澤:それをあえてパッケージでやることが、SCA-自さんがおっしゃる体験やアイデンティティみたいなところに繋がっていくっていうことなんですよね。
SCA-自:そうですね。モノじゃないとしても、体、心身のね、体験ですよね。例えばライブとか。
マス大澤:それはコンサートホールでやるライブですよね。ネットのライブ配信とかはどうなんですか? 例えばSCA-自さんが過去の名作をライブ配信するとか、ファンはすごいお金投げてくれたりしそうですけど。
SCA-自:わかりますが、ちょっと僕インターネットには出ないです。出るとしても顔出しでは出ない(笑)。
マス大澤:でも美少女ゲームはまだ、他のジャンルに比べてもっと頑張りができるんじゃないかと思います。それは流通とかショップとかも含めて。例えば太宰とかも、今どきの人気漫画家がカバー描いて若い読者を増やしたりとか、いろいろやってますよね。他にも書店で「SFマガジンが選ぶSFの名作ベスト10」とかのポップがあったり。ああいうのも、例えば僕がこう出てって「BugBugが選ぶ名作エロゲベスト10」とか、やってもいいと思う。ていうか実際提案したこともあるんですけど、なかなかそういうのが実現しないというか。美少女ゲームメーカーさんって結構一つ一つ会社がいっぱいあるので、なかなかこう業界を上げて全体で考えるみたいになりづらいのかもしれないのかも。
SCA-自:そうですね。それはちょっとソフ倫さんに期待したい。ソフ倫さん自体がそんなに新しい取り組みとか、そういったものに対してそこまで前向きじゃないじゃないですか。
マス大澤:でもMoepediaでイベント(※注9)もやるみたいですし。そうやって色々新しいことをしていくようになると、非常に素晴らしいなと思いますね。
SCA-自:そうですね。でも正直、やっぱり業界の人たちと話してると、内輪の情報ばっかり集めてるんで。もう内輪の情報を集めてもしゃあないんですよ、今って。「イベントをしましょう」って言った時に、それは誰に向けてやってるのかとかいう視点とか、データとかっていうのがもうちょっとあってもいいんじゃないかなって気はしますね。多分、今そのイベントをやるとして、少なくとも3分の1ぐらいは外人ですよ。そういう事実を認識して、対策しているのかどうか。
マス大澤:ただ単に電気外(※注10)がなくなったから、キャラ1(※注11)がなくなったから、代わりにウチでやろうっていうだけだと、ちょっとどうかなというか、もうちょっと考えてほしいってことですね。
SCA-自:そうですね。情報が足りていない感じがします。
マス大澤:業界誌も昔は何社もあって、結構上の方はライバル関係バチバチとかあって。例えばどこに先に出したらどこには出さないとか。でももうね、業界が生きるか死ぬかみたいな状況だから、そういうのはもうやめようみたいな感じで、最近はやってるんですけどね。あんまそういうことは気にせず、情報もオープンにしていって、共有化して盛り上げていくみたいなのが必要かなと。
SCA-自:5年ぐらい前だとそこまで状況が変わった感はなかったんですけど、今はかなり変わっているんで。ゲームが大きく変わってる感はあるから。今まで「これこうやると勝ち筋だった」みたいな勝ち筋が、果たして本当に勝ち筋なのかって。さっきも言った通り、メディアミックスを結構やったIPじゃなくて、メディアミックスやってないIPの方が、海外とかの価値が化ける気がします。もちろんアニメ化したやつでも、『ヨスガノソラ(※注12)』みたいなすっげえ特殊なものとか(笑)。
マス大澤:確かに『ヨスガノソラ』とか出してほしいな(笑)。
SCA-自:アニメの方で世界的にバズっちゃってますよね。
マス大澤:いやでも何周年記念の豪華版とか出たら売れそうな気しますけど。
SCA-自:『ヨスガノソラ』はめちゃめちゃ海外で人気ありますし、だいぶ売れますよ。
マス大澤:ですよね。この前も海外のVTuberさんが喋っているのを見かけましたし。
SCA-自:めちゃめちゃコスプレイヤー見ますし、やっぱりいいねとかも多いです。
※注9:「モエペディアキャラクターフェスティバル」。ソフ倫が運営する「Moepedia」の主催で、2026年4月25日に浅草橋の東京文具共和会館にて開催。
※注10:「電気外祭り」。2009年よりスタートした美少女ゲームを中心とするリアルイベント。
※注11:「character1」 。2014年よりスタートした美少女ゲームを中心とするリアルイベント。
※注12:『ヨスガノソラ』。Sphereより2008年に発売された18禁PCゲーム。TVアニメ化され大胆な性描写が話題を集めた。
▲ソフ倫が運営する美少女ゲーム・ポータルサイト「Moepedia」の主催で開催された「モエペディアキャラクターフェスティバル」。人気美少女ゲームブランドが参加して大盛況だったのだ
社会が暗くなると美少女ゲームが売れる!?
マス大澤:コスプレイヤーと言えば、先ほど海外で御社の作品コスプレしてる人にゴス系とかナード系とか、内に閉じこもりがちな人が多いみたいな話をおっしゃってたかと思うんですけれども。いまの中国って就職難だったりで若者が厳しく、躺平族(=寝そべり族)とかいって寝て過ごしているって話を聞いたりします。僕とかもまさに就職氷河期の初っぱなだったんですが、美少女ゲームが流行るにあたって、そういう若者の社会的不安との関係性って、あったりすると思いますか?
SCA-自:データでは示されないんですけど、でも体感上は躺平族だけじゃなくて、北米とかだとドゥーマー世代(Doomer)だったり、あと韓国でもN放世代とか言われてたりしてて。今特にアメリカ、ここ1~2年ぐらい若者の失業率がとんでもないことになってるじゃないですか。
マス大澤:アメリカがですか? 中国じゃなくて。
SCA-自:アメリカもとんでもないことになってるんですよ、この1~2年ぐらい。テック系がめちゃめちゃ首切りし始めたんですよ。
マス大澤:AIとかも関係あるんでしょうね。
SCA-自:AIは引き金っていうか、実際にはその前から米国での若年大卒の雇用は結構悪くなってるんで。その辺や中国とかの時代に対する閉塞感は、やっぱり美少女ゲームとはなんか相性がいい。
マス大澤:大正のデカダン文学みたいに、閉塞感がある時代にカルト的で内向きなものが求められがちというのを、最初SCA-自さんの話を聞いて面白いなと思って。
SCA-自:そうですね、まさにそれ。世界的に似たような状況の人間が多くなっているという感覚があります。日本でも新卒の景気は比較的いいとされてきたけど、今年からまずくなりそうな気配がある。失われた30年間の閉塞感は払拭できないですよね。企業業績は上がっているところもあるけれど、生活実感としては体感がないという人が多い。
マス大澤:そういう社会情勢と美少女ゲームの関係性を考えると、ここしばらくは社会情勢的に厳しいのが続きそうなので、美少女ゲームもまだまだ期待が…(笑)。
SCA-自:それもね、嫌な話(笑)。
マス大澤:そうですね。喜んでいいのか悪いのかみたいな話になっちゃいますけど。
SCA-自:景気が悪くなるとね、やっぱりゲームの売り上げは下がる。僕が体感で美少女ゲームをめちゃめちゃ売れなくなったのを感じた瞬間って、リーマンショックの1年後ぐらいだったんですよね。美少女ゲームってそれまでって景気に左右されないって言われてたんですけど、リーマンショックの時だけは体感としてガクって下がった感じはありましたね。
マス大澤:若い子は今、それこそソシャゲとかで無料でエロゲができたりするじゃないですか。だからなんでみるくふぁくとりーさんとか、若い人たちにすごい人気あるのか、ちょっと不思議で理由が知りたかったんですよね。そうしたら若い人にとっては、完結してるっていうことが、今なんかすごい貴重らしくて。
SCA-自:あー、あるかもしれないですね。
マス大澤:そう、『FGO』とかもソシャゲって終わらないじゃないですか。だけど1万円近く出しても、もうはっきりこれだけ遊べて、これだけ実用度があって楽しめて…みたいなのが、もうパッケージで一目でわかるから。逆に今時貴重みたいな話を聞いて、なるほどなと思いました。
SCA-自:みるくふぁくとりーさんは特に、みるくふぁくとりーさんのゲームでしか味わえないものですからね。
マス大澤:それにコスパ的に言っても、最初に1万円投資するみたいなのは、若い人はちょっとハードル高く感じちゃうのかなって思ったんですけど。中身がこれだけあるというのがはっきりわかるから、それはいいっていうのは、なるほどなと思って。先ほどおっしゃったルールみたいなのがどんどん改変されているのは、自分たちもそうですが、今の若い子たちにとってもそうなんだなと思って。
SCA-自:でも10何年ぐらい前からかな。今までって若者はお金使わないみたいな話だったじゃないですか。でも今の若者って結構、好きなものに対してはすごいお金を使う。だからさっき言った、売れないゲームに関しては本当に売れなくて、売れるゲームに関しては売れるっていうのは。1万円払ってもいいかどうかっていう、そこの強度があるかっていうとこは、差として結構出ますよね。
マス大澤:ソフ倫のインタビューでもおっしゃってましたよね。すごい高い金額のライブの席が予想以上に売れた(※注13)とか。
SCA-自:すごい高いですね(笑)。
マス大澤:やっぱり好きなものや体験にはお金を惜しまない、そういうマインドなんですかね。
SCA-自:だと思いますよ。それはうちの体感だけじゃなく、前から若い子の消費行動として、ビジネスで言われてたんで。VTuberに高額にスパチャしたりとか、あとはクラウドファンディングですよね。このクラウドファンディングでゲーム開発を最後にしますって言ったら、すごいお金が集まったりとか。やっぱりそういう記念的なものに対してユーザーはお金を払うと思います。3~4年ぐらい前あたりには、「もうちょっと金を落とさせてくれよ」みたいなのを、うちだけじゃなくよく言われてました。
マス大澤:確かに、そこもちょっと感じるんですよね。さっきの話とはちょっと真逆になっちゃうんですけど、美少女ゲームって買い切りが多くて。でも今例えば『ストリートファイター6』とか若者にも新たに流行ってたりしますが、ああいうのってちょこちょこ衣装買ったりとか、新しいキャラを追加コンテンツで購入するとか、追加で購入するのが結構あるんですよね。それがなんかユーザーにとってはメーカーへのお布施になってるし、メーカーにとってはその利益が定期的に入って助かることにはなると思うので。なんか美少女ゲームもね、そういう長期的にコンテンツを活かしてマネタイジングしていく仕組みみたいなのも、もうちょっと考えてもいいんじゃないかなと。それが美少女ゲーム業界だと、イベントだったりグッズだったりするのかもしれないんですけれども。作品としてもね、なんかそういうことできないのかなとか、ちょっと思ったりしますけどね。
SCA-自:そうですね、その辺はそうだと思います。
※注13:「一番の最高の席を40万円で販売したのですが、倍率が80倍だったんですよ。40万円のチケットがそんな出るわけないと思ってました。お客さんがちょっと一部キレたりしたりしてて、なんでもっと用意してないんだみたいな。」(出典:ソフ倫30周年記念座談会【後編】)
▲みるくふぁくとりーは最新作『もっと!孕ませ!炎のおっぱい異世界 おっぱいスパイ学園!』を発表したばかり。安定したボリュームと実用度がユーザーの安心感を生み、若いファンが急増中だ
ノベルゲームという呪い
SCA-自:これはうちの戦略にも関わる話なんですが、ゼロ年代的な美少女ゲームというのは、もうノベルゲームでしかないんです。それに対して今、Steamで受けているのは、むしろ90年代的なDOS/Vのドットゲーム的なものなんですよ。
マス大澤:いや、すごいわかります。
SCA-自:でこのね、ゼロ年代的な美少女ゲーム、ノベルゲームっていう形でしか、我々は作れなくなってしまってる。
マス大澤:うわ深いな。いやー分かります。悔しいけど分かりますね。
SCA-自:今の若い子や海外がSteamでめちゃくちゃ新鮮に感じるのものって、あえてドット絵にしたり古いシミュレーションゲームシステムだったり、まるで90年代のゲームの再来なんですよ。この前も渡辺明夫さんが描いたアーケードゲーム『ジャンケンゲーム あっちむいてホイ(※注14)』が日本でバズって、その後に海外でもバズっていた。そういうところだと思いますね。
マス大澤:シティポップもそうですし、日本のレトロポップ文化が昔調のアニメのMVと一緒に再評価されていますよね。
SCA-自:だからもちろん90年代的なものを90年代的なものとしてそのまま出したら意味はないんですけど。ただね、90年代的なものっていうのは、少なくとも今後、美少女ゲームを変革するっていうか、ゲームチェンジャーになり得る。
マス大澤:いや、よくわかります。Vaporwaveって音楽ジャンルがあって、海外のナード的な人たちが喜ぶような、古き良き90年代とかのスーパーマーケットとかで流れていた環境音楽みたいな感じの音楽で、日本のシティポップとかが結構使われてたりしているんですが。そこで美少女ゲームの映像や音楽もよくサンプリングされてたりするので、そういう流れに乗ってシティポップみたいに美少女ゲームが世界的に再評価されないかなっていうのは、常々思っていました。確かにおっしゃる通り、先ほど言っていた黄金期より前に、鍵があるのかもしれないですね。
SCA-自:ある意味その黄金期がでかすぎたから、我々はちょっとノベルゲームの、なんだろう、呪いっていうか、それになんかやっぱ執着っていうのが強すぎた部分が深すぎて。でも美少女ゲームってそれ以前から文化としてあって、特に90年代の方が多様性はすごいんですよね。
マス大澤:いや、そうですよね。実は僕もずっとその呪縛にチャレンジしてきたっていうか、美少女ゲーム=ノベルゲームみたいなのはちょっと違うんじゃないかと、ずっと考えてやっていて。僕が最初入ってきた時に一番好きだったのは、Libidoっていう仙台のゲームメーカーがあって。
SCA-自:はいはい。懐かしいですね、Libidoさん。
マス大澤:結構システムというかギミックみたいなのにもこだわってて、凄く好きでした。あとはやっぱり古き良き推理アドベンチャーみたいなのも好きで。確かに今のインディーゲームとか、DLsiteさんで売れている同人ゲームとかでは、結構そういうのが再評価されている感じはありますね。
SCA-自:あえてそっち側に寄せていってる。それが同人じゃなく、ある程度資本があるメーカーが、それをどういう風に調理するかっていうのは、価値があることじゃないかなと思っています。
マス大澤:いやいや、すごい見てみたいですね。ぜひやってほしいですね、いろんなところに。
SCA-自:やっぱその技術的には結構ね、今面白い技術がまあ出てきてたりするんで。今、若い子と新しいゲームの企画立ててるんですけど、彼らにとってめっちゃ新しくてめっちゃ今風だって言ってるのが、大体90年代のゲームなんですよ。あとは2010年代とかに、その90年代的なDOS/Vゲームの継承者ってのは、僕は同人ゲームだと思ってるんで。DLsiteの2010年以降ぐらいの90年代的DOS/V感覚っていうのが、Steam上でも世界的にそれらしきものが使われてきていて、それがみんな新しく感じるっぽいんですよ。
マス大澤:すごいわかります。
SCA-自:で、その若い子と話してる時に、これ新しいんですよって言われた時に、我々の強みって、実はそれの元全部知ってるってことなんです。90年代の時にこういうゲームがあってとか、2010年以降の同人ゲームではこういうところのこれで売れて、みたいな。だとしたら今Steamで海外も含めて売れてるゲームっていうのはこのように解釈できるんじゃないのとか。90年代からエロゲーの歴史をある程度紐解いて、新しいものとして再文脈化できるのって、唯一年寄りにしかできないんで。
※注14:『ジャンケンゲーム あっちむいてホイ』。データイーストより1996年にリリースされたアーケードゲーム。
▲Libidoは現在もHPが稼働中。原画家のJOY RIDE氏はその後サークル「ヨロコビの国」でギャルモノの同人コミックでブレイクした
メディアに求められるものは?
マス大澤:美少女ゲームが再び盛り上がるためにメディア、我々BugBugとかBugBug.NEWSとかに期待することを流れでお聞きしたいのですが。これはやっぱり、そういう歴史的な部分になりますかね。
SCA-自:重要です。ここ2~3年で美少女ゲームに入ってきた海外のユーザーが本当に多い。その時に美少女ゲームの歴史がちゃんと整理されていて、信頼感のあるメディアって今ほぼないと思うんですよ。商売でなく長年この業界に関わってきて、言葉として、データとして残せるのは編集部ぐらいしかないじゃないですか、ぶっちゃけ。だから、あとはもう本当にメディアの問題だけの話で。メディアっていうのは、要はWEBなのかXなのか、ぐらいの問題なんですけど。
マス大澤:歴史を保証するというか担保するというか、そういうところで結構メディアも必要かなとは思いますね。
SCA-自:歴史の担保って、本当に雑誌社しか担保されてないんですよね。批評だったり、そういう全エロゲの歴史というかは、ショップさんだってそんな残してもないし、人も変わっちゃうだろうし。
マス大澤:個人的にちょっとお聞きしたいのが、メディアでの批評について。雑誌が何の作品を推すみたいなのは、昔に何冊もあった時はそれぞれ違ってて、それこそあのハイエンド系の『ピュアガール』さんとかは、いち早く同人ゲームにもかかわらず『月姫(※注15)』を表紙に起用してきて、「うわ、やられた」みたいに当時は思ってましたけど。以前はそういう切磋琢磨がありましたが、最近は雑誌の数が減ってきたこともあって、そういう批評性というかがなくなってきてると思うんですけれども。やっぱり必要だと思いますか?
SCA-自:批評というか…いまだと考察が流行ってますよね。少し難解なアニメや映画が流行ったら、まずみんなYouTubeの考察動画見てたりするので。
マス大澤:ネットとかでも上がってますよね。
SCA-自:ボク自身もそうですけど、小説読んだ後とかに、なんかすっげえ気になる作品なんかは、やっぱりネットで検索して批評とか感想とかめちゃくちゃ読みます。自分的に全く面白くなかった作品とかで評価が高かった時なんか、逆にすごく参考になりますよ。「ここに世間と自分との感性のズレがあるな」って。ボクら年寄りって自分がつまらないとすぐに「世の中のレベルが低い」って思いがちなんだけど、逆にそのズレは大事なポイントだと思わなきゃいけない。多くの若者も同じ様に批評とか感想を消費している様にボクには見えますし。
マス大澤:そうなんですよね。やっぱ業界を盛り上げていくためには、問題点を指摘するのも重要ですけど、腐してもしょうがないしみたいなところもあるので。
SCA-自:さっきも、批評が上から目線になりがちと言ったのですけど、本来なら批評は批評という作品そのものであるべきで、なにも俯瞰的に作品を眺めるだけが批評ではない。批評が作品であると捉えるならば、批評にはいろいろな形式がありえる。今の時代にみんなが好む批評の形式であるならば、よりフラットに「こういう風にこの作品を見れるぞ」とか「こういう風に感じると面白いぞ」とか「実はこの様な読み方が出来て」的な方が喜ぶと思います。
マス大澤:批評の形もそれこそ変わってきてるでしょうし。この前、ホロライブのVTuberさんが『ガンダム』のファーストの映画見てるのを同時視聴でやっていて。で、結構みんなその反応に盛り上がってて、切り抜きとかにもなってたりして、ついつい見ちゃうんですけど。ああいうのも新しい批評というか、しかも体験型ですし。それで皆で「この子は反応がいい!!」とか言いながら、作品も盛り上がってくみたいなのは、新たに「あ、じゃあ見てみよう」って思う人も増やすだろうし。こういう形っていいなと思いました。
SCA-自:いや、まさにそうだと思います。そもそも批評って批評形式を固定させる必然がないと思うのですよ。批評も物語であり、そしてなによりも商品なんですよね。それ自体が商品である以上、楽しめるかどうかっていうのが重要で。批評によってそれを楽しむことで、作品に何か違う価値を与えたり、新しい楽しみ方がそこでできたり、そういう意味合いの方が大事だとボクは思います。だからVTuberのその同時視聴とかは、ボクにとっては批評ですね。
マス大澤:そうですよね。だからやっぱその辺も、どんどん変えていかないといけないですよね。
SCA-自:80年代にデリダ(※注16)の脱構築的な批評という言われ方がされていたんですが、そもそも批評って作品に対する正解を見つけたい願望が強いのだけど。脱構築的って、そういった作者も作品もひっくるめて正解たらしめている「構造」を読み取り、構造に埋め込まれた対立項を見つけ出して、作品内部から自己矛盾性を暴いて、作者が意図しない射程で作品に対して違った読み込みができる手法だったと思うのです。
マス大澤:なるほど…脱構築ね。
SCA-自:でも、ややするとこういう視点って単なる性格の悪い読み方にしかならない。さらに、今の時代って、作品も作家も批評も批評家も読者もすべてが、それぞれの役割から適当に解放されるぐらい流動的で、それぞれの役割というのが昔ほど固定的ではない。実際、批評的文脈という構造そのものが、いろいろな視点によって恐ろしいぐらい意味が変わってしまう。そのことに無自覚な人が、「最近は批評が流行らずに、すぐに正解を求める考察動画ばかり若者は見る」みたいに言うのだけど。そういう構図も含めて、言っている人達が、中心・起源・二項対立・価値序列みたいなものに陥ってしまっている。ある意味で今の時代において、脱構築的な批評は、それを俎上に捉えていた対象作品と同じく、無意識で前提にしてしまっていた、二項対立・価値序列・中心構造が浮き彫りになってしまって、自身の言葉の運動によって揺るがして読むことができてしまう。簡単に言うと批評が批評のブーメランになってしまう。そもそも、今の時代的に、そういうめんどくさい手続きそのものに意味があるとは思えない。西洋的というかインテリ的というか極めて特権階級的というか。古めかしい権威的なものに見えてしまう。
マス大澤:今のエロゲーユーザーとかも、軽々となんかこう、軽快に楽しんでる感じありますよね。SNSとかで繋がっていってみたいなのは、本当に今思うと、昔そういう現代思想的な人が言ってたことが、現実になっているのかもしれないですね。
SCA-自:エロゲを脱構築的に読むんだか現代思想的読むんだか分からないけれども、ゼロ年代にそういう知的な風潮が流行った。そういう権威がある著名人が参入してきて、沢山の弟子がエロゲを批評した。けど、そういう読み方って、相当気をつけないと、単に偉そうなだけで、誰の心にも響かない、思想的なパフォーマンスにしかならない。
マス大澤:確かに、そういう風潮はあった気がします。
SCA-自:権威的なるものを本気で権威付けに使っても、今の時代はこけおどしにしかならない。今どきの権威って、保証書ぐらいの意味でしかなく、それでいて、今の時代は保証書というのがとても大事なんです。なぜならばフェイクが多い世の中なので、みんなインターネットの中で信じられるものには保証書があってほしい。例えばBugBugさん自体が歴史があって、マス大澤さんは紙媒体の雑誌編集長で、美少女ゲームのレジェンド級クリエイターとも話をしたことがあり、美少女ゲームの歴史的転換期を実際に経験している。これは一種の権威ではあるけど、でもあくまでもそれは「言説の保証書」に過ぎない。でも保証書がついた商品だから、ユーザーは安心して楽しめる。そしてBugBugさんにはそういう存在になって欲しいし、マス大澤さんにはすごくエロゲに詳しいユーザーライクなおじさんって感じであってほしい。
マス大澤:いや本当にそうですね。岡田斗司夫さんとかそんな感じで、今結構若い人にも支持されてますもんね。
SCA-自:まぁ、岡田斗司夫さんは保証書ありとしての地位はあるでしょうね。まぁ、言説の中身は知らんけど。
マス大澤:(笑)。いやなんか昭和のおじさんなんだけど、こういうのも今の若者は支持するんだなと思って。
SCA-自:たしかに、そういった意味では岡田斗司夫さんはいつの時代でも若者を味方に付けるのが上手いので偉大な人ではありますね。そういう部分は我々も見習わなければならないかもしれません。けど、YouTubeするのなら、エロゲが敷き詰められた本棚の前でおっさん一人で喋るんじゃなくて、若い子が欲しい。20歳代の男性が好ましい。
マス大澤:いやー、じゃあちょっと御社のファンでいい人いたらと紹介してください(笑)。
SCA-自:(笑)。うちもYouTubeのチャンネルやりたいなと思ってても、やっぱり人材が足りなくて。動画やってないです。
マス大澤:ああ、そっか。御社はそういう、ライブ動画みたいなのはやっていないみたいな感じですね。
SCA-自:いや、話せるってことが重要なので。しかも話せる内容が、ちゃんと身があること。それは編集長だったらもうクリアはされてるんで。
※注15:『月姫』。TYPE-MOONがまだ同人サークルのころである2000年に発売した18禁PCゲーム。TVアニメ化もされる大ヒットを記録した。
※注16:ジャック・デリダ(1930-2004)。フランスの哲学者・現代思想家。
▲こちらの2025年7月発売『素晴らしき日々 〜不連続存在〜 15th Anniversary edition』や、2025年12月発売『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- 10th Anniversary edition』など、周年を記念した豪華エディションのリリースが多いのもケロQ/枕作品の特徴。コアなファンを多く持つ名作がたくさんあるからこそできる売り方だ
美少女ゲーム業界を目指す若い人へのアドバイス
マス大澤:それでは最後に、美少女ゲーム業界で働きたいという若い人へ、何かアドバイスをいただけますか?
SCA-自:アドバイスとして言えるのは、今の美少女ゲーム業界は本当に転換期であって、商売の形態として大きな変革が起きていると感じています。まず、市場が国内だけではないこと、その市場の広がりが日々更新されていること。また、商品の形態や販路なんかも大きな変革が見えてきています。だから、若い子が美少女ゲームに入るなら、我々のような昔からいる人間が考えつくことを超えてほしい。自分たちが欲しいもの、やりたいこと、こういうものが美少女業界ってあった方がいいよねという視点を、世界市場をフラットに見て、考えて欲しい。我々の様な古い人間が驚く様なものの見方を見せてほしい。
マス大澤:我々を驚かすようなことを期待している、という感じですね。
SCA-自:経営が厳しい会社が多いのも確かだけれども、それでもできることは前より増えているのです。それを怖がらずにやってほしい。業界全体として、ボクはそれほど悲観的には思っていないんです。市場のルールはだいぶ変わってしまっているから昔のようにはいかないけど、新しいルールの中でどうするかというビジョンがあれば、大企業に行くより得るものは多いかもしれないし、スキルも磨けるかもしれない。
マス大澤:自分の好きなことを表現できるとかだと、美少女ゲーム業界はほんとピカイチかもしれないですよね。
SCA-自:実際だからどっかのメーカーに入った時に、音楽、ファッション、まあ何でも絵とか何でもグッズでも何でもなんですけど、実はそれら全部の仕事が良くも悪くも一個人で何でもできちゃう。それって美少女ゲームぐらいのものなんですよね。音楽とか関わってる人間が他のグッズとかには関われない。アパレルやってる人間と音楽やってる人間とか。
マス大澤:逆に言うと何でもやらされちゃうみたいな。まあでもそれがやっぱ楽しいですからね。
SCA-自:そうそうそう。で、それでできることが変わってるっていうのがやっぱり面白いと思いますけどね。だから昔みたいなルールでやろうとしたら、実際問題として昔のできることはすごい規模が縮小してる。
マス大澤:こういう企画を立ち上げといてなんですけど、昔にはもう戻れないですからね。もう社会も違うし。だから同じものを復活させようとしても、それはまあ無理な話かなとは個人的にも思うんですが。まあとはいえというので、こういう企画をやってみてるんですけれども。
SCA-自:いや、でもいい試みじゃないですか。面白いなと思いましたよ。
マス大澤:要するに、美少女ゲームをやりたくて美少女ゲーム業界に入ってくるんだったら、美少女ゲーム以外の他のことをいろいろやって学んどけ、その方が大きいよってことですかね。そこでいろいろ知見を広げて、先ほどおっしゃっていた海外に刺さる作品の作り方とか、それをビジネスにしていくやり方を考えていった方が、大化けする可能性があると。
SCA-自:でもわりかし美少女ゲーム自体がだいぶ淘汰されちゃってるんで。実はそんなにレッドオーシャンではないと思うんですよね。
マス大澤:今や逆に。
SCA-自:逆に。だから、要はなんか昔みたいに流通からお金借りて、馬鹿でかくやってっていう風にやったら、それは失敗する可能性はリスクあるんですけど、それ以外のやり方であれば、わりかしいろんなやり方があり得ると思う。
マス大澤:昔ながらの美少女ゲームのやり方じゃなくて新しいやり方をやれば、例えば御社みたいに海外の方とかにいけば、まだまだ伸びしろはすごいある、ということですよね。
SCA-自:美少女ゲームは今後はすべてソシャゲ化みたいに考える方も多いですけど、そうでもない。ノベルゲームに期待している人々は、案外、世界中で多いかもしれませんよ。
マス大澤:今日はいろいろなヒントをいただきました。美少女ゲームが今後盛り上がっていくことを期待しながら、これからもこういう企画を続けていきたいと思います。長い時間、本当にありがとうございました。
SCA-自:こちらこそ、ありがとうございました。
▲YouTubeのチャンネルはやっていないというSCA-自氏だが、『ケロQ』『枕』の公式チャンネルは絶賛稼働中。OPムービーやボイスドラマなどが楽しめるので要チェックだ
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