萌えもエロもグローバリゼーション!? 美少女ゲームがもたらす世界市場の最前線とは
SEKAIPROJECTという会社をご存知だろうか。北米にあり、日本の美少女ゲームを翻訳して、世界に配信している会社なのだ。絶賛発売中のBugBug3月号では、その日本法人の代表・中本氏にインタビューを敢行。世界市場における美少女ゲームの現状や、日本の作品が売れる理由、各国ごとの表現規制がどうなっているのか、最先端の海外オタク事情…などなど、たっぷり語ってもらったぞ。今回はその内容をダイジェストでお届け!!
▲今回インタビューに答えていただいたのはSEKAIPROJECTの日本法人・株式会社セカイプロジェクト代表の中本直宏氏だ
元々は“ねこねこソフト”の片岡とも氏がきっかけ作
──本日はよろしくお願いします。まず、SEKAIPROJECTはどのような経緯でスタートしたのですか?
中本:もともとはねこねこソフトの片岡ともさんきっかけですね。『ナルキッソス』などのともさん作品を英語翻訳しているランディ・アウというというニューヨーク在住の方がいるんですが、ともさんと僕と木緒なちさんとでニューヨークに行ったことがあった際に、ランディさんも含めてカナダのノヴァスコシアに行こうという話になったんです。
──片岡ともさんでノヴァスコシアだと、『水のマージナル』が思い出されますね。
中本:実はあの本の担当編集が僕なんです。そこで先述の3人+ランディさんの計4人で2013年の秋に旅行に行ったんですよ。その帰国後、ランディさんから「日本のエロゲーをメインにメーカーから正規ライセンスを得てノベルゲームを翻訳して配信で販売する、というアイデアを考えている人間がいるんだけど、話を聞いてあげてほしい」と連絡がありまして、現在アメリカでSEKAIPROJECTの本体を運営しているクリスとレイモンドに会うことになったんです。
──なるほど、それでどうなったのですか?
中本:彼らは当時、日本のノベルゲームを趣味で翻訳していたんですが、二人ともとてもいいヤツで、本当にエロゲーが好きなのが伝わってきたんですよ。そんな二人が、ちゃんと日本のメーカーの許諾をとって翻訳販売をやりたい、と言うわけです。それで当初はメーカーを紹介するような形で協力していたんです。ですが翻訳はともかく、ビジネス面でうまくいかないことが多々でてきてしまった。そもそも日米の商習慣も違う上に、彼らもライセンス交渉は初めてで、交渉上の諸問題が出てきたんです。
──ではビジネス的には苦戦されたんですか?
中本:いや、それがですね、当時クラウドファンディングが盛り上がり始めた時期で。『CLANNAD』や『グリザイアの果実』などの移植前提のクラウドファンディングが大成功したんです。クラウドファンディングが盛り上がってお金が集まるのは良いのですが、集めたからにはいろいろと制作しなければいけない…ということで、業務が飛躍的に増えたこともあって、日本側も正式に法人として株式会社セカイプロジェクトを立ち上げることになったんです。それが2015年ですね。
──ということは、中本さんがやられているのは、日本代理店ということですね。
中本:そうですね。また、アメリカ側の役員も兼ねています。僕もなんだかんだでこの業界に長くいますので、知り合いも多く、諸般アドバイスもできますので。
▲こちらがSEKAIPROJECTの公式HP。日本のビジュアルノベルを英語や中国語に翻訳して販売する他、漫画・ラノベの翻訳やオリジナル作品なども扱っている
全世界のノベルゲームのシェア45%くらいは中国
──片岡ともさんは先日の本誌インタビューで、海外市場の大きさを語っていました。この規模の差は人口の違いなのでしょうか。
中本:人口ももちろんですが、年齢層の違いもあると思います。人口だけで言えば日本も1億2千万人いますが、エロゲーを遊ぶ若い層が少なくなっているわけです。例えば90年代から00年代にエロゲーを買い支えていた当時20~30代の団塊ジュニアの世代、日本人口におけるもっとも大きなボリュームゾーンは、20年以上が経ち、自分の趣味だけにお金を使えるような立場じゃなくなっている人が増えていると思います。家族を養っていかなければいけない、親の介護なんかも出てくる、そして自分自身も老後のことを考え始める。その一方で今の20~30代はソーシャルゲーム、YouTubeをはじめオタクのライフスタイルも大きく変化している。パッケージゲーム市場が崩壊しているのはもちろんですが、それ以前に若者層が以前に比べて格段に少なくなっているのは致命的です。
──その層が海外にはまだある、と。
中本:例えば中国ですね。全世界のノベルゲームシェアの45%くらいは中国人なんです。これは単純に人口が多いだけでなく、若い層が厚いということと、教育水準が高いことが挙げられます。
──教育水準ですか。
中本:ノベルゲームはそれを読み解くだけの学習や読書の習慣が必要ですからね。もちろん日本も教育水準は高いですが、正直若い人が「物語を読む」というのは減少していると感じます。これはライトノベルやなろう系サイトを含めても同じだと思っていて、実際に売れるのはコミカライズだけで原作小説はさほど…という状況です。ノベルゲームは長い文章を読んで楽しむわけですが、それを楽しいと感じられる若者層は、日本では減っているんです。
──つまりは日本でノベルゲームが隆盛を迎えていた30年くらい前の状況と、今の中国の状況が近いということなのでしょうか。
中本:そうだと思います。
──アメリカはどうなんですか?
中本:アメリカは人口が日本の約2倍で、日本のような少子高齢化にはなっていません。教育水準も高いので、日本市場よりは可能性がありますね。実際、SEKAI PROJECTのアメリカメンバーも、総じて高学歴です。ただ、比率でみれば、やはり中国のほうが圧倒的に層が厚いですね。
──なるほど、そう考えると世界を視野に入れた展開をしないとダメなわけですね。
▲BugBug3月号ではSEKAIPROJECTのインタビューをカラー4ページで特集。ご覧の通りの濃密ボリュームで読み応え満点なのだ
これまで作ったのは関連作品含めて200作品超え!!
──そんなSEKAIPROJECTですが、これまでどれくらいのタイトルを出されているのでしょうか?
中本:関連作品を含めて200作品を超えています。
──実際に日本のノベルゲームを移植する際に、選ぶ基準のようなものはあるのでしょうか。
中本:アメリカサイドから、有名なアニメ化されているような作品の移植リクエストもありますが、最近は、コンパクトなボリュームの作品が多いですね。以前はフルプライス作品の翻訳移植をすすめていたんですが、数MBものテキストを読むのはやはり大変なんですよ。海外でもコアユーザーはどれだけ大きなボリュームのゲームでも遊んでくれるのですが、ライトなユーザーはプレイが続かないんですよね。なので、明るく、かわいくて、わかりやすい、コンパクトな作品を、という流れになってきていますね。
──日本でもコンパクトなゲームが人気になっていますね。
中本:そうですね。YouTubeなどの動画エンタメの影響もあると思いますが、エンターテイメントの1本あたりの時間が短くなってきていると感じます。また制作面でいってもフルプライス作品は翻訳に時間がかかります。数MBのシナリオを翻訳しようとすると1年以上時間がかかるわけです。そうなると移植決定から販売まで結局2年くらいはかかってしまう。正直、今の時代で2年後3年後まで見通すのは非常に難しいです。リリースまでのスケジュールが見通せることは重要です。買いやすく気軽に楽しめるボリューム感の作品というのが、今のユーザー的にもSteamの特性的にも合っていると思います。もちろん今でもフルプライス作品の移植は進めていますが、以前ほど積極的に大作ノベルゲームを取り扱ってはいないです。
▲インタビュー中には登場する用語を解説するカコミも掲載。『ナルキッソス』は2005年に片岡とも氏がサークル“ステージなな”名義で発表した同人ノベルゲームだ
海外でエロゲーを楽しんでいるのは高学歴な人が多い!?
──移植にあたって、作品内容についてはいかがでしょう。学園ものなどは海外では日本のお約束が通用しないので厳しい、などと聞いたこともあるのですが…。
中本:それはあります。仰る通り制服文化はアジア圏の特徴かもしれません。欧米では、ティーン以上の年齢層では、全生徒が同じ服を着て通学するということはほとんどないんですよ。だからその中で恋愛ドラマや青春ドラマを描いても、一般的には共感されないというのがあります。
──人気のジャンルとして、「ケモ耳ヒロイン」が人気というのも聞いたことがあります。
中本:「萌え」の認知は日本ほどではないので、エロゲー的な「ロリエロかわいい」みたいなのはそのままだとはずかしくて受け入れにくい…。なのでペットのようなかわいらしさとすり合わせるというか…。「猫耳がついていてかわいい」とか「犬のしっぽがかわいい」とかだと受け入れられやすい気持ちになれる…みたいな感じかもなあと。昔の日本でもあった、エロゲーだけどエロメインじゃなくて感動するからこのエロゲ―をプレイいているんだ! みたいな感じ…ですかね。ある意味、エロゲ―をやるのは言い訳が必要というか…。
──それはアメリカでも同様なのでしょうか。
中本:アメリカはより多様性があるといいますか、より小さな属性やジャンルに対して、それぞれ盛り上がっている感じですかね。そもそも、アメリカのノベルゲームファンは、アジア系アメリカ人が多いんですよ。実際SEKAIPROJECTのメインメンバーや、紹介してくれたランディもアジア系です。そういう人たちが文化貢献のような形でノベルゲームの移植をしている感じです。
──ああ、アジア独自の文化、アジア独自の文学形態という感じでしょうか。
中本:まさにそんな感じですね。だから高学歴な人が多いんです。彼らにとっては外国語で書かれた海外文学を楽しんでいるわけです。あまつさえ、それを楽しみたくて来日までしてしまう。これは高学歴で高収入じゃなければできませんよ。日本で言えばフランス文学にハマって、そのルーツを巡ろうとフランス旅行に出かけてしまうようなものなんですから。
▲ファンサブとは海外作品にファンが字幕をつける事。ちなみに字幕をつけた動画を勝手に公開するのは基本違法なので注意しよう
見た目がロリのキャラが2万9歳と言ってもダメ!?
──ではそんなアメリカと中国で、2021年に一番売れたタイトルはなんでしたか?
中本:SEKAIPROJECTパブリッシュでは『ネコぱら』シリーズです。クオリティーの高さはもちろんのこと、2020年11月に最新作が出たタイミングもあったので強かったですね。
──それはアメリカでも中国でもですか?
中本:そうです。
──なるほど、そうなんですね。たとえば去年では『きまぐれテンプテーション』が翻訳移植されましたが、この作品はどのような経緯で翻訳移植が決まったのでしょうか。
中本:『きまぐれテンプテーション』はシルキーズプラスさんから移植翻訳してほしいとお話をいただいたんです。なので、かなり協力的に進めることができました。
──メーカーさんの方から。
中本:内容的にはエロ要素が強いタイトルなのですが、ロリ規制には引っかからないので、そこはやりやすかったですね。
──Steamのロリ規制とは、どういったものなのでしょう。
中本:簡単には言いにくいんですが、『きまぐれテンプテーション』が良かったのは主人公が陰陽師でヒロインがサキュバスというところですね。Steamのロリ規制というのは絵柄だけでなく作品の内容などもチェックされるんです。その中で「21歳未満の人が性的なことをやっている」と判断されるとアウト。その意味で、「ちゃんとサキュバス」という設定はある意味職業ものとなって引っ掛かりにくいんです。
──サキュバスが職業…なるほど。
中本:いわゆるロリババアが「わしは2万9歳じゃ」と言っても、外見が明らかに子供に見えるからアウトだよってのは、Steam側も明言しています。そういうところを考えると、『きまぐれテンプテーション』はエロ要素は強いですが、陰陽師と悪魔というキャラクター設定なので、移植しにくい作品ではないんです。逆に例えばメインビジュアルに制服ヒロインが出てきて、作中のメインがティーンの通う学園内で、しかもその流れでエッチしちゃってとかだと、どんなに修正をかけてもなかなかに厳しいんですよ。
──なるほど、それはそうですよね。
中本:作品的な要素としては、原画家のきみしま青さんが、中国で人気ということも後押しになりました。
──そういうところも判断材料になるんですね。
▲『きまぐれテンプテーション』は2019年にシルキーズプラスから発売されたAVG。SEKAIPROJECTによって翻訳され、Steamで海外に向けて発売されているのだ
誌面では美少女ゲームのワールドワイドな可能性についてまだまだ直撃!!
3月号に掲載したSEKAIPROJEC日本法人代表・中本氏へのインタビューでは、ノベルゲームの海外展開について、日本が持つアドバンテージについて、海外販売のプラットフォームや価格帯について、翻訳家のモチベーションについて、BugBug読者へのメッセージ…等々、今回紹介した以外にも注目の内容が超ボリュームで掲載。絶賛発売中のBugBug3月号を是非手に取って読み込んで、世界に発信する美少女ゲームの魅力を感じ取って欲しい。
▲今回のSEKAIPROJECTのインタビュー特集は、BugBug1月号で掲載した“ねこねこソフト”20周年記念作品『神の国の魔法使い』片岡とも氏ロングインタビュー付き特集の影響が大きかったのだ。超刺激的で面白い内容なので、こちらでダイジェストが読めるので是非チェックを!!
▲BugBug3月号は紙版も電子書籍版も絶賛発売中。これ以外にもスクープ特集やインタビュー企画が満載なので、こちらの記事で確認してね♪
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