発表直後から話題の「美少女ゲーム復刻プロジェクト」!! レトロゲームショップ・BEEPの手でDOS時代の名作が令和の時代に蘇る
今では入手困難な過去のPCゲームを遊びたい──そんな気持ちから生まれたロマン全振りなプロジェクトを、レトロゲームショップBEEPが実現!!
対象となるのは、1992年にフェアリーテールより発売された『狂った果実』と、1993年にカスタムより発売された『メタルオレンジEX』だ。
いかにして90年代のDOS作品…Windows以前のゲームを遊べるようにしていくのか。BugBug3月号では本プロジェクトのキーマンであるレトロゲームショップBEEPのお二人に、カラー6ページを使って直撃インタビュー。その一部をここで紹介しよう!!
▲貴重なレトロゲームの中古販売をメインにしているBEEPが、ついに自分たちで幻の作品を蘇らせる!!
レトロショップだから得られた作品選びのヒント
当時遊んでいたユーザーが最初のターゲット
──BEEPさんと聞くと、我々はまずレトロゲームショップを思い出してしまうのですが。
丸山:でしょうね。BEEPは秋葉原に店舗を構えて今年10年目になります。また、現在は川崎にBEEP宮前平店という買い取り専門店も経営しております。
──やはりレトロゲームを取り扱われたことが、今回の「美少女ゲーム復刻プロジェクト」に繋がったんですか?
丸山:元々この時期のゲームが好きだということもあるんですが、この時期の美少女ゲームは取り扱うたびにプレミアがつくようになって、簡単に手に入らなくなってきているんですよ。
──確かにDOSの頃のゲームはかなりプレミアがついているという話は聞いたことがあります。
丸山:例えば今回の『メタルオレンジEX』なんかは5万円くらいの値段がついているんですね。しかもこれはどんどん値上がりしていく傾向があるので、いいゲームなのに中々手に入らなくなっているんです。そして今回復刻プロジェクトの第1弾となる『メタルオレンジEX』と『狂った果実』はリメイクなどされていない。こういう懐かしい名作を手に入りやすい形でもう一度お届けしたいという思いから立ち上げたのが「美少女ゲーム復刻プロジェクト」なんです。
──そうなるとターゲットユーザーはどのあたりになるのでしょう?
丸山:当初は私と同年代。こういうゲームを遊んでいただろう40代後半から50代を想定していました。
井上:自分なんかはその世代から外れるんですが、最近はレトロゲームの実況配信が人気になっていますよね。美少女ゲームでも「あの頃の伝説の名作が今遊べるなんて」って話題になって、ワンチャン若いユーザー層もって考えています。
丸山:実は過去の名作の復刻に関しましては、5年前に「BEEP EXTRA GAMES」という企画で『アンデッドライン』や『YsⅠ&Ⅱ ~Lost ancient kingdom~』をフロッピーディスクで復刻させたことがありまして、その購入層はだいたいかつてこれらのゲームを遊んだ世代だったんですね。でも今回はより若い井上がプロジェクトに入ったこともあって、フロッピーだけでなくSDカード版、さらにはWindows版も視野に入れての規模感に広げていったんです。
▲最初はフロッピーディスクで復刻というマニアックすぎるプロジェクトだった。今後はSDカード版なども販売するとのこと
公式エミュレーターX68000 Zで展開開始
一般ゲームで得た手ごたえから企画スタート
──さて、そんな「美少女ゲーム復刻プロジェクト」ですが、今回はX68000 ZのSDカード版と5インチフロッピー版をまずは出されるということですが、こちらについてご説明をお願いします。特にX68000 Zとは?という疑問を持つ読者も多いと思いますので。
丸山:X68000 Zは、瑞起という会社がシャープの許諾を得て制作したX68000の公式エミュレーターになります。当時のX68000とほぼ同じOSを搭載しているので、当時のX68000用ゲームは全て動きますよ、ということだったんです。
──瑞起さんは「美少女ゲーム復刻プロジェクト」に対してどのような反応だったのでしょう?
丸山:それについてですが、そもそもゲームソフトを出す時にパソコンを製造している会社に許諾を得て制作はしていませんよね。あくまでそのPCのプラットホームを利用しているというだけで。もちろん今回のプロジェクトについては瑞起さんに逐一説明して進めています。
──そして現行のパソコンで遊びたい人向けでWindows版が予定されているわけですか。
井上:そういうことです。Windows版は年内発売を予定しているのですが、こちらは当然開発し直さなければいけないので、時間がかかってしまうんです。Windowsで動くのは前提としているのですが、詳細な販売形式などは、現在まだ検討中です。
丸山:そもそも言語が違いますから。
──プログラムを組みなおすのはBEEPさんでやられるんですか?
井上:流れとしましては、カスタムさん、F&Cさんから権利をお借りして、弊社が企画とディレクションを担当して外部の開発会社さんに制作していただく形になっています。
──ひとくちにWindows版作成といっても難しさもありますよね。
井上:そうですね。一番大変なのは、やはり以前のゲーム制作に関わった人がいない場合プログラムの解析から始めなければならないということです。このハードルがかなり高くて、これを外部にお願いするとなるとどうしてもお金の話になってしまうんですよね。
▲まずは、とてもコンパクトながらきちんとX68000として動作するエミュレーター『X68000 Z』向けに発売される。タイムリーなことに現在、サイズを大きして端子を増やした後継機『X68000 Z SUPER / X68000 Z XVI』のクラウドファンディングが2月27日まで行われているぞ
ドット絵、8bit、16色などをそのまま再現
当時100点だった作品そのままをもう一度
丸山:僕は日本ファルコムの8bitを信じて『YsⅠ&Ⅱ』を復刻し、『ドラゴンスレイヤー』や『太陽の神殿』、『ロマンシア』の復刻を出してきたんですが、お客さんがそれについてきてくれた。これが大きな自信になっています。もちろん美少女ゲームをそれと同列に考えているわけではありませんけどね。
井上:最初から今のメインユーザー層に向けて復刻版を出すのではなく、以前のファンに盛り上がってもらいつつ、それに加えて今のユーザーさんにも響いてくれたらなあくらいで僕は思っています。
──そういう意味でも第1弾の2作品が盛り上がってくれるといいですね。なにせ復刻できそうな作品はまだまだあるのが美少女ゲーム業界ですから(笑)。
丸山:そうですね。僕自身はリメイクではなく復刻にこだわってきました。でもそこに井上の考え方が加わって、新しい見え方も出てきた感じですね。
井上:自分はリメイクするのであれば、何かしら新しい要素を入れて、ゲーム自体の価値が上がらなければいけないと思っているんです。そういうリメイクでないなら過去の遺産を使いまわしているだけじゃないか、と。
──確かに世の中の「レトロブーム」とはちょっと違う印象ですよね。それなら確かに復刻版の方がレトロ感は強いと思います。
井上:しかもリメイクって、どんな作り方をしてもお金はかかるわけですよ。そこまでするなら、例えば『同級生リメイク』も悪くないけど、それなら蛭田さんの新シナリオで『同級生3』を遊びたいって思っちゃうじゃないですか(笑)。
──あの時のスタッフで新作を…まあ、90年代のゲームだとそれが難しかったりするわけですが(笑)。
丸山:まあ、かつての名作をリメイクするという話があれば、OKする会社はあると思います。ただ、そのゲームのファンからすれば最初に発売された時のものが100点満点なわけで、どうリメイクしてもそれ以上にはならないわけですよ。
──思い出補正などもありますしね。
丸山:でも復刻版なら、100点満点だったものをそのまま出してくれる。自分はユーザーでもあったから、そこも復刻版へのこだわりなんです。
▲カスタムの原画・柳ひろひこ氏といえば当時を代表する人気原画家のひとり。一般作品では『チップちゃんキィーック!』などのキャラクターデザインでも知られる
当初はBEEP店頭販売。Win版では販路拡大も
ソフ倫審査は視野に入れつつ流通方法は思案中
──今回の「美少女ゲーム復刻プロジェクト」は、どのようなルートで販売をされるのでしょう。
丸山:まず一つあるのは、今回ゲーム流通を使って市場に流すことはそこまで考えていません。基本的に弊社の自社サイトと店舗での販売を考えています。
井上:ここが弊社の強みで、自分たちの販売ルートがあるのでペイラインぎりぎりの低ロットでの生産も可能になります。そのため、他ではやりにくいプロジェクトも弊社では取り組みやすくなっているというのはあります。
──それでは多店舗への卸しなどは、BEEPさんから直接ということになるのでしょうか。
丸山:SDカード版はまだ決めていないんですが、フロッピーディスク版については他店舗への卸しは考えていません。だって現在、大手量販店でもフロッピーメディアの販売なんかされていないでしょう(笑)。SDカード版は瑞起さんを通して販売することにもなると思います。
──Windows版はいかがでしょう。
井上:そちらについては現在調整中といったところですね。パッケージでの販売の有無も含めて、もろもろ検討中です。
丸山:まあ、流通を決めていないということです。
──なるほど。それではソフ倫との兼ね合いはいかがでしょう。『狂った果実』はソフ倫設立前に発売されたソフトなので、そこが気になってしまうのですが。
井上:こちらも諸々検討中なのですが、基本的にソフ倫の審査は通す予定でいます。審査方法も色々ありますし、現在調整しております。
丸山:基本的にソフ倫の審査を通すことは大事なことだと思います。権利元はソフ倫に加盟しているわけで、そこに迷惑をかけるわけにはいきませんから。
▲フェアリーテール作品には大人向けな雰囲気の作品も多かったが、『狂った果実』はなかでも特に人気の高いタイトルだ
人気に頼らず「今は遊べない」伝説作品を
今後の課題は当時の権利元とへの連絡と折衝
──井上さんはどうですか? 復刻してみたい作品はありますか?
井上:これが結構難しい質問で、もしかすると回答がズレてしまうかもしれないのですが…やっぱり権利元からお借りして復刻されるという時点で、現状弊社として交渉の場に立てるタイトルがそもそも少ないんですよ。そこから絞って出そうとしても、こちらの希望と許諾元の思惑が合わないこともあるわけです。とはいえ我々も復刻して意味のあるゲームを送り出したい。そういうところと考えた時、自分が「この作品を復刻させたい」という以前の権利元への営業の部分で悩んでいるところが大きかったりするんですよ。
丸山:せっかくなんで声を大に言いたいんですが、どなたが権利を持たれているのか分からない作品も多いんですよ。例えば僕は『天使たちの午後』(JAST)が大好きでこれはどうしても復刻させたいと思っているんですが、ゲームの権利元がどこなのか、どうすれば繋がれるのか分からないんですよ。もしこの記事をお読みになっている方でそちらがお分かりの方がいれば、ぜひご一報ください。
井上:そういう作品が他にもあって、そこで止まってしまっているケースが結構あるんですよ。
丸山:なので1990年代からゲームを制作していて、いまだに権利元として頑張られているメーカーさんは本当に素晴らしいと思います。尊敬しています。F&Cさんもカスタムさんも過去作品を本当に大事にされているのが伝わってくるので、あの当時のいちユーザーとして、本当に嬉しいです。
井上:ちょっと話は変わりますが、美少女ゲーム音楽なんかはもっと大変ですよ。どこが権利元なのか、まったく分からなくなっているケースが結構あるんです。そんなカオスな状況の中でYouTubeに上がっていたりするでしょう。ああいう権利関係をどこかがしっかり管理してくれないかなあと思うんですが、結局当時のメーカーが消えてしまうと権利関係も消滅してしまうんです。
▲新しいことに挑戦しようと数多くのクリエイターたちが競い合っていた1990年代、数多くの名作が生まれた。こういった作品群をなんとか蘇らせたいが、現在では権利の所在が不明な作品も多く、容易なことではない
当時のゲームをそのまま出すロマンがベース
当時を知る人も知らない人も復刻版に注目!!
──確かにフロッピーディスクでの復刻は難しいところもあるのでしょうが、ゲームで言えば30年前くらい。エンタメコンテンツとしては言うほど古くはないという考え方もできますよね。
丸山:そうですね。まだまだ今遊んで楽しいゲームはありますよ。それに90年代でもFM TOWNSやPC-98のゲームでCD-ROMで発売していたものはあるんですよ。だからメディアじゃないんです。当時の8bitや16bitのゲームをそのまま復刻させるところにロマンを感じるんです。
──ロマン…いい言葉ですね。
井上:それもあるからこそ、我々もプロジェクトを動かした時に「賛同してくれる人も多い」という手ごたえを感じることができたんだと思います。これは間違いないですね。
──これからの「美少女ゲーム復刻プロジェクト」にも期待してしまいますね。それでは最後にBugBug読者へメッセージをお願いします。
丸山:実はBugBugは創刊号から買っていたので(笑)、今回のインタビューはとても感慨深い時間でした。まだまだ90年代の美少女ゲームを楽しんでいた人たちも読者に残っていると信じていますので、ぜひとも「美少女ゲーム復刻プロジェクト」の作品を手にしていただいて、あの頃に想いを馳せていただければと思います。
井上:アダルトゲームの復刻を率先して進めるということは、これまでなかったことだと思います。せっかくなので当時楽しまれた方、当時買いたくても買えなかった方に楽しんでほしいなと思っています。当時を知らなかった若い世代のエロゲーマーのみなさんにとっては一周回って興味深い企画だと思いますので、よろしくお願いします。
丸山:今回は特装版みたいな感じでお値段が少し高めではあるんですが、『メタルオレンジEX』では原画家の柳ひろひこさんの描き下ろしイラストパッケージを作りました。当時の製作スタッフも楽しんで参加してくれていますので、そういう雰囲気も感じていただけると嬉しいですね。
▲プロジェクト第1弾の『メタルオレンジEX』は柳ひろひこ氏による描き下ろしパッケージを使った特装版もあるぞ!!
今の利益よりも未来ために──かつての少年そして現在の美少女ゲーマーたちへ
過去の名作のリメイク作品がヒットしている昨今ではあるが、DOS時代まで遡るとなると現在の権利を持っている人を探したり、Windows移植のためのプログラム解析など、必要な労力や予算に対して、どうしてもターゲットが狭い本プロジェクト。しかし「美少女ゲーム復刻プロジェクト」をみんなに知ってもらいBEEPの店舗に来てもらえるようになれば、次へと続いていく…と長いスパンで展開を考えているようだ。このプロジェクトを応援するためにも、行ける人はBEEPの店舗に足を運んでみよう。
BugBug3月号本誌ではさらに詳しい全文を掲載しているので、気になる人はぜひ読んでみよう!!
▲アーケード基板も扱っているレトロゲーム専門店『BEEP』。ゲーム以外にもレトロなものを多数取りそろえていて、見るだけでも楽しそう🎵
メタルオレンジEX
カスタム
2025年春ごろ発売予定
ACT、FD/SDカード、18禁、SHARP X68000シリーズ/X68000 Z
X68000 5インチFD版:17,600円(税込)
X68000 Z/特装版:10,780円(税込)、X68000 Z/通常版:6,380円(税込)
ボイス:なし、アニメ:なし
原画:柳ひろひこ
狂った果実
フェアリーテール
2025年春ごろ発売予定
AVG、FD/SDカード、18禁、SHARP X68000シリーズ/X68000 Z
X68000 5インチFD版:17,600円(税込)
X68000 Z/特装版:10,780円(税込)、X68000 Z/通常版:6,380円(税込)
ボイス:なし、アニメ:なし
原画:畑まさし