エロゲシナリオライターの僕は執筆のためにトランス状態になっている
──エロゲーシナリオライターの僕は時々、自分が渡辺僚一なのか美少女キャラなのかわからなくなることがある。
冗談で言っているわけではないのだ。果てしなく真顔で言っていることに留意してもらいたい。
賢明なる読者の方々には不必要だと思うが、本題に入る前にシャーマニズムについて簡単に説明させてもらう。
シャーマニズムとはシャーマン(祈祷師)の能力によって成立している宗教や宗教的儀式のことであり、シャーマンとはトランス状態になることで異界と交信する人のことだ。
シャーマンは憑依させた精霊の力で予言や病気の治療をすることもあれば、死者を憑依させて遺族と会話をすることもある。
日本では青森のイタコ、沖縄のユタ、という形で現存している。
ここからが本題だ。
──異界の意識を体に降ろし、現実世界の人々に情報を与えるのがシャーマンであるならば、世の中の小説家、漫画家、シナリオライターは全てシャーマンである、と言えるのではないだろうか?
物語について真剣に考えている時、キャラクターが勝手に喋り出すことがある。その時の僕はキャラクターの言葉や行動を書き出すだけのマシーンと化している。
つまり僕は美少女の憑依に特化したシャーマンであると言っていいだろう。
しかし、毎回都合よく美少女が憑依してくれるわけではない。
こちらの集中力や興奮がいい具合に高まった時、トランス状態になり美少女が憑依してくれるのだ。
それは稀な状態であり、常にトランス状態で執筆しているわけではない。
ならば、トランス状態にいつでもなれるように訓練すればいいのではないか?
そうすればよりよいシナリオを書けるのではないか?
いいシナリオを書くために、インプットを増やすとか、文章教室に通うとか、ノウハウ本を読むとか、名作の書き写しをするとか、そういう方法よりも、異界と繋がりトランス状態になる方がより実践的であり、確実に実戦的ではないか、と僕は考えたのだ。
明らかに何か間違っている気がするが……気がするがっていうか間違っていると思うのだが、正気にては大業はならいのだからしょうがない。
多くの地域のシャーマンがトランス状態になるために、メロディーのない単調な音を使う。
それは太鼓である場合もあるし、呪文である場合もある。
僕の場合、散歩する時の足音をこれに利用した。
一定速度で歩き続け、自分の足音に耳を澄まし続ける。
変化のない単調な音は時間の認識を狂わせる。
目をつぶって電車に乗っていると右に進んでいるのか左に進んでいるのかわからなくなることがある。
単調な音を聞いていると、時間の感覚でそれが発生するのだ。未来と過去の感覚が曖昧になっていく。
刻の流れが狂い、時が停止した瞬間、物理的枠組みは崩れ、肉体の中に収まっていた意識が異世界と結びつき別の人格が姿を現すのである。
──何を言っているんだ、僕は?
でも、そうとしか言いようがないのだ。目に見える物だけが現実ではないと、強制わからせしてくるマジカルペニスがトランス状態なのである。
その日、僕は企画シナリオを担当していた『缶詰少女ノ終末世界』のキャラクターである八乙女華江のことを考えながら散歩していた。トランス状態になり、八乙女さんを憑依させた状態で散歩していた。
僕の意識と八乙女さんの意識が交じり合っていた。
この作品で何をしたいのか? どんな活躍をして、どんなエッチをしたいのか? 僕は八乙女さんに問いかけていた。
【八乙女】
「ほら、物語の表と裏を繋げる役割なキャラだからさ、
そこをこう、明るくやりたいんだよね。
裏側のストーリーでもふざけたいっていうかさ」
【八乙女】
「ん~、そうだなー。エッチなことなんかなんでもないって雰囲気なんだけど、いざ始まると混乱しちゃうとか、そういうのがいいんじゃないかな?」
そんなことを八乙女さんと話し合いながら、意識は徐々に八乙女さんに乗っ取られていく。
【八乙女】
「あっ。……やっぱり、そういうことしちゃうんだ。
あう、あんっ! はっ、あっ!
じっ、自分でするのと全然違うね、んんんっ」
八乙女さんのエッチシーンについて真剣に考えていた。
【八乙女】
「やんっ! あっ、イッちゃう! イッちゃうよ! あぅ!」
その時、僕の脳内を支配していたのは完全に八乙女さんであった。
そして、八乙女さんが絶頂に達した瞬間!
【八乙女】
「イッちゃう!」
【渡辺】
「イッちゃう!」
八乙女さんが叫ぶと同時に憑依状態の僕も叫んでしまっていた。
──気づくとそこはコンビニの店内であった。
コンビニの店内であった!
コンビニの店内であった!
コンビニの店内であった!
ファミリーマートであった。ファミチキが僕を見ていた。
ジャンボフランクが驚いていた。
確認していないが、店員も客もそうだろう。
憑依散歩を続けていた僕は意識することなくコンビニに入り、イッちゃう! と絶頂声を出してしまったのである。
瞬間、憑依が解けた!
コンビニで絶頂声を張り上げる、というのは完全に変態のふるまいであり、誰がどう見てもアナルバイブを遠隔操作されている中年男性である。
──咳だ! 咳が全てを救うッ!
瞬時にそう判断した。
【渡辺】
「イッちゃう、ごぼんっ! ごっ、ごっ、ごごごこ、喉が……」
そう言いながらコンビニを飛び出した。そして振り返らずに歩き続けた。
トランス状態になって散歩するのは超危険ッ!
そういう教訓を得たはずなのに数ヶ月後、トランス状態でバトルシーンを考えていた僕は牛丼の『吉野家』の店内で……。
【渡辺】
「並べ。右から順番に殺してやる」
そうクールにつぶやいてしまったのであった。
路上トランスはマジで危ないのでみんなもやる時は気を付けてくれよな!
▲こちらが『缶詰少女ノ終末世界』八乙女さんのHシーン。このようなシナリオライターの数々の苦労の上にHシーンは生み出されているのだ!!
渡辺僚一
100年に1人の逸材、太陽の天才児。史上最強のシナリオライター。別名「渡辺ファッキン僚一」。ゲームクリエイター有志によって設立された「とまりぎ亭」に所属。代表作は、『蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2』(sprite)、『ふゆから、くるる。』(シルキーズプラス)、『缶詰少女ノ終末世界』(シルキーズプラス)、『あきゆめくくる』(すみっこソフト)、等多数。7月26日発売予定のHOOKSOFTの最新作『シークレットラブ(仮)』にもシナリオで参加して期待を集めている。
▲HOOKSOFTの話題作『シークレットラブ(仮)』に渡辺僚一氏もシナリオで参加!! 学園生活の「バレない恋」にスポットを当てた、秘密の恋愛を楽しむAVGだ
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