『さよならを教えて』のCRAFTWORKが22年ぶりに新作を出すことになった経緯とは!?
『Geminism 〜げみにずむ〜』。美少女ゲームに詳しい人であれば、この作品──より詳しくいうならば“CRAFTWOTKの新作”が登場したことに驚いただろう。『さよならを教えて』から22年。CRAFTWORKはこれまでどうしていたのか、なぜいま新作を出すことになったのか、そして長岡氏の新作はどのような内容なのか。みんなが気になる色々なことを、BugBug10月号では新作のキーとなるお二人に直接インタビュー!! どこを切り取っても興味深くて面白い内容だが、そこから一部をお見せしよう。
▲『Geminism 〜げみにずむ〜』の中心となったお二人にお話を伺ったぞ
『さよ教』DL版の小ヒットで
できた資金で新作開発スタート
──今回CRAFTWORKさんが発売される『Geminism ~げみにずむ~』はブランドとして22年ぶりの新作となります。この22年の間、何をされていたかをお伺いしたんですが。
長岡:なにをしていた……というか、ゲームが売れなかったので新作が作れなかったというだけで(笑)。
──ですが『さよならを教えて ~comment te dire adieu~』は今も熱狂的なファンがいるゲームですよね。
長岡:あの作品は後になって評価をいただいた作品なんですが、発売直後は鳴かず飛ばずで。なのでCRAFTWORKでの新作というのが作れなかったわけです。
──その間はどのようなお仕事をされていたんですか?
長岡:一応ゲーム系デザイナーとして、UIデザインなどをしていました。PS3の『涼宮ハルヒの追想』ですとか、PSPの『とらドラ・ポータブル!』のUIなどは自分のデザインですよ。
──そういったお仕事をしていく中で、今回22年ぶりのCRAFTWORKから新作ゲームを出されることになったのですが、これはどのような経緯でなのでしょう?
長岡:『さよならを教えて』のDL版を2016年にDLsiteさんで配信していただいたのですが、その後のセールで小ヒットしまして、お金が入ったんですね。それで制作費を賄うことができるというのが現実的な理由の一つです。
──若いクリエイターや声優にお話を伺うと、DL版で『さよならを教えて』をプレイできてハマったという声も少なからず聞きますね。
長岡:このDL販売は、ソフトの裾野を広げるという意味で大きかったと思います。実際、プレイしてくれた方から同じようなご意見をいただくこともありました。
▲発売後に少しずつ口コミで評価が広がったものの、パッケージしか販路のなかった当時は遅れて入手するのが困難だった。DL版の登場によりやっとプレイできた人たちからの高評価で再び注目を浴び始める
「長岡先生に新作を」と言い続けて長年
漫画家・旭氏のシナリオ参加までの努力
──旭さんは『Geminism』ではシナリオライターとして参加されていますが、CRAFTWORKとはどのような関係なのですか?
旭:私はかなり昔に『さよならを教えて』の半公式同人誌を描いていたんです。長岡先生にデザインしてもらったり、石埜先生に寄稿をいただいたり。当時は『さよならを教えて』の絵を描いている同人作家ってあまりいなかったので目をかけていただいていたんですね。私としても長岡先生には次の作品を作ってほしかったので、『さよならを教えて』のグッズやLINEスタンプの制作をしたり、20周年記念イベントを主催したりしたんです。
──あのイベントは旭さんが主催だったんですね。
旭:そうです。20周年を盛り上げたいということもありましたし、長岡先生や石埜先生に「今、こんなに若い子たちが『さよ教』を支持しているんですよ」っていうのを実感してほしいという気持ちもありました。実はずっと「新しいゲームを作りましょうよ」と言い続けていたので、こういうイベントを通して気持ちが乗ってくれたのかなとも思っています。
──いいお話ですね。ファン活動の鑑ですよ。
旭:『Geminism』に関しましては、私もプロの漫画家として活動しているので、シナリオ作成もできますよ、とこちらから売り込んだ形です。
──旭さんがいなかったらCRAFTWORKの再起動はなかったんじゃないかって感じですね(笑)。
旭:長岡先生は否定されると思いますけど(笑)、石埜先生やさっぽろももこ先生は「頑張ったね」って言ってくださいました。
長岡:まあゲームを作るのには複合的な理由があるので……うーん、ここ数年で田所広成さんや三ツ矢新さんといった連中が亡くなってしまったじゃないですか。彼らは最後の最後までゲームを作ろうとしていた連中なんです。その遺志を継ぐ……というわけではないんですが、生きている自分はゲームを作らないとな、と思ったんです。それに加えて旭はずーっと「ゲームを作れ」って言ってくるし、お金の面も一応片付いたしで。だから理由は一つではないんですよ。
▲長岡氏の影響を受けたと自称する旭氏の作品は、ミステリー色の濃いものが多い
女性を中心に更新されていく長岡ファン
レトロでおしゃれなデザインが人気の理由
──これはゲームに限ったことではありませんが、発表直後の評価は高くなくとも、その後時間をかけて評価される作品というものは少なくないですよね。『さよならを教えて』もそんな作品だったということでしょうね。
長岡:まあ、そういうことだったのかもしれませんね(笑)。
旭:どんどん新しいファンが更新されていくのを私は見ていますから。世代を超えて……特に女の子の心をとらえる作品ですよね。
──新しいファンは女性が多いんですか?
旭:多いです。もちろん男性のファンも多いですが、新規は女性が多いですね。
長岡:もちろん発売当初は男性が圧倒的に多かったけど。今だとSNSを通じて広がっていくんですかねえ。
旭:一時期ニコニコ動画のMADで主題歌が使われて「この曲何?」って話題になったりもしましたよ。
長岡:その意味ではまず曲が良かったことが一番で、そこから芋づる式に知ってもらえた感じですかね。
旭:特に長岡先生の絵やデザインが女性に好まれるもので、今のレトロブームと相まって支持されているということもありますね。
長岡:デザイン的には今に通じる部分はあると思うし、絵の古さに対するアレルギーのようなものが女性の方が少ない気がするよね。
旭:ああ、それはそうだと思います。「さよ教の絵が古い」などといった意見は女性からはほとんど聞かないんです。80年代や90年代のイラストが、若い女の子に人気なんですよ。そういう層に長岡先生の絵はリーチするんですよね。顔かたちやパーツの描き方がおしゃれなんですよ。
長岡:今人気の美少女ゲームやエロ漫画の絵に比べたら古いんだけど、それをいいと言ってくれる女性ファンがいるってことだよね。
▲昔から長岡氏のセンスは独特なものがあったが、新しい客層が入ってきたことでその魅力が再認識されつつある
──なかなか興味深いお話ですね。そんな中で再起動するCRAFTWORKですが、今後もゲーム制作を続けていかれるのでしょうか。
長岡:再起動って言われても、こっちは辞めていたつもりはないんですよ。お金の問題で新作を作っていなかったというだけで。なので『Geminism』が売れれば制作を続ける未来もあるかも知れませんね。
旭:なので売れてほしいんですよ。私は長岡先生にゲームを作り続けてほしいので。
──そんな『Geminism』はFANZA GAMESからのDL版、ブラウザ版に加えてパッケージ版もリリースされます。現在パッケージゲームは苦戦していると聞きますが、敢えてパッケージ版も出されると決めた理由を教えてください。
長岡:いや、実は最初はパッケージ版を作るつもりはなかったんですよ。でも周りが「初回限定版でいいからパッケージ版を作れ」って言うから出すだけで。
旭:むしろFANZAさんがパッケージ版の制作を強く推してくれたんです。『さよならを教えて』のファンはパッケージ版に強いこだわりを持っている人も少なくないので、この申し出は本当にありがたかったです。
長岡:なのでパッケージ版はありますが、資材も高いし数はそんなに作れていません。どうしても欲しい人は予約した方がいいですよ(笑)。
──むしろブラウザ対応という方が今の時世に合っているような印象があります。
長岡:パソコンを持ってない人が多いようで。タブレットやMACユーザーの取り込みを見越した部分もあります。
旭:そんな人たちにも遊んでもらうためにもブラウザ対応は必須だと考えていました。
長岡:パソコンを持っていてもドライブがついていないって人も多いしね(笑)。
▲発売日は11月24日に延期となったが、おかげでパッケージ版の予約がまだ間に合う。生産数は多くはないようなので手に入れたい人は早めに予約しよう
長岡作品の魅力である淡泊な物語に
今風のウェット感を盛り込む旭脚本
──『Geminism』の企画が動き始めたのはいつくらいだったのですか?
旭:2021年。「さよ教」イベントの年の夏くらいには企画書ができていて、シナリオを作り始めていましたね。
──『Geminism』におけるテーマをお聞かせいただけますか?
長岡:テーマ!? まあ大体いつも一緒なんですが「幸せとは」ということかなあ。
旭:長岡先生たちCRAFTWORKメインスタッフが2004年に出した『ピエタ~幸せの青い鳥~』(FlyingShine黒)と今回はコンセプトが近いの?ですが、「不幸な少女 幸せ探し」だと長岡先生も言われていたなあ、と。
──今回は旭さんがシナリオを担当されているのですが、シナリオ制作はどのように進められたのですか?
旭:まず長岡先生がざっくりとしたプロットを企画書の段階で出していただいていたので、それを基盤にプロットの間を物理的に埋めていってシナリオを組み上げていきました。ストーリー展開やキャラについては長岡先生と相談しまくって深めていきました。私自身、昔から長岡先生の作品に影響を受けて成長してきましたし、今の漫画家としての仕事もその延長線上にあることをやってきていますので、そこは生かせたかなと思います。これまでCRAFTWORKでは石埜先生が担当されてきたお仕事なんですが、今回は石埜先生からも「任せた」と言っていただいたので、頑張りまして……CRAFTWORKらしいシナリオになっていると思います。
▲長岡氏のファン代表とも言える旭氏が、長岡氏の持ち味をしっかり活かしつつドラマ性を盛り込んでいった
──そんな『Geminism』は、どのような物語になっているのでしょう。
旭:あらすじなどは公式に発表されている情報と体験版をプレイしていただければ、わかってもらえると思います。シナリオ面でいえば、長岡作品ならではの淡泊さ、人の感情に深入りせず現象の積み重ねで作っていく物語に、人の感情や成長が生み出すドラマ性を盛り込めたらいいなと思いまして、キャラクターを好きになって感情移入できるようにということを意識しました。
──長岡さんは旭さんのシナリオを読んで、いかがでしたか?
長岡:まあ、こんなもんかな、と(笑)。正直、ユーザーの評価はどう転ぶかわからないところですよね。
旭:でもシナリオを読んで「これなら絵を描く手も進む」って言ってくれたんですよ。そういうことをインタビューで話してくれない人なんですけど(笑)。
長岡:いやまあ、単純に「話が決まったから絵が描けるね」ってことなんだと思うけど。
旭:はいはい、分かった分かった。まあ、長岡先生はこんなですけど、石埜先生はホメてくれました(笑)。
18禁≠エロはCRAFTWORKのこだわり
そのこだわりはCVキャスティングにも
──そんな『Geminism』ですが、公式サイトにはなかなかショッキングなCGも公開されていますね。
長岡:そうですか? これでもマイルドにしたんだけどなあ。
旭:切断面とかもないですしね。注意書きとかで驚いている人もいるかもしれませんが、「リョナ系グロ系が売り」ではないので安心してください。
長岡:まあ『さよならを教えて』も抜き要素ってそこまでなかったわけで、それでも好きだっていうファンもいたわけですよ。なので、あまり心配はしていません。
旭:まだ発表されていませんが、ちゃんとしたエロメインのCGはありますよ。そこは頑張りました。もしかすると「ちゃんとしてないじゃないか」って思われる方もいるかもしれませんけど(笑)。
長岡:そもそも「18禁=エロ」というだけではないから。そこは以前から意識してきたところで、エロをやりたければ抜きゲーっぽいのを作ってますから。
▲ショッキングに見えるシーンもごまかさずにきちんと描く、それも18禁ならではの出来ること
──CVについてもお伺いします。今回桔梗と深紅には双子の中家志穂さんと中家菜穂さんを起用しています。こちらは狙ってなのでしょうか?
旭:はい、キャラが双子なので探してもらったら「双子の声優がいる!!」と。二人一緒に出演するというのも最近少ないらしくて、受けていただいて本当によかったです。
──長岡さんは収録にも参加されたということで、現場や収録の結果はいかがでしたか?
長岡:よかったですよ。キャラのイメージピッタリでした。というかそもそもヒロインは声優も双子じゃなきゃヤダって言ったのは俺だし(笑)。もちろんどうしても都合がつかなかったら声質が似ている声優を二人探そうとも言っていたんですが、一人二役は嫌だった。「似た声で違う演技」にこだわりたかったんです。そこで幸運なことに一卵性双生児の声優さんが見つかったのでお願いしました。
旭:どっちを深紅でどっちを桔梗にするかでも悩んだんですよね。ただ、本当に親身になって演じていただけて、魅力的なヒロインになりました。
▲双子ならではの“似てるけど同じじゃない”ことが大きな意味を持つ本作の声優は実際の双子にやって欲しいという長岡氏のこだわりによって、実際に一卵性双生児の声優さんに頼むことができた
より多くの人たちにリーチさせるため
CRAFTWORKの味を門戸を広げて提供
長岡:とにかく「門戸を広く」というのは意識しました。やりすぎてしまって男の子も女の子も引いてしまうような作品にはしたくないですから。そこはバランスですね。もちろん「自分が観たい作品を誰も作ってくれないから自分で作る」というスタンスは変えていません。でもせっかく作ったのに門戸を狭くしすぎて誰も見てくれないというのもダメじゃないですか。そのためのバランスは気をつけました。まあ、結果が出てみないとわからないところですけどね。
旭:そこの橋渡しのようなものを私が頑張っていこうと思っているんですけど、私も趣味が趣味なんで、流行とズレている可能性も否定できないので(笑)。というかズレてますね…。
──そう考えると公式サイトにも掲げられている「ご注意」がますます気になってきます(笑)。最近のファンへの挑戦状なのかな、と。
長岡:まあこれはCRAFTWORKの味というか中二病的な楽しみの一つというくらいですよ(笑)。あとはエクスキューズ。これを読んでふるいにかけられているよね、と。
旭:「挑戦状」って言ってもらえましたけど、私個人としてはそういう気持ちも少しあります。昨今は注意書き社会みたいなところがあるじゃないですか。そこへのアンチテーゼとして「こんな感じだけど、まずは作品に体当たりしてみてよっていう気持ちの表れですね。
▲公式サイトより。作品タイトルと同じくらいのスペースでご注意が書かれている…が、むしろこれでワクワクする人も多いはずだ
新しい演出や音楽、間口を広げるための工夫など、まだまだ面白い情報だらけのインタビュー!!
長岡氏と旭氏による“職人親方と弟子”のような独特な掛け合いは一般的な取材とは全然違っていて、それだけですでに面白いインタビューとなっている。さすがCRAFTWORK…。冒頭にも書いたが、どこを切り取っても興味いインタビューなので抜粋には苦心した。ほかにも、一般的な立ち絵、イベント絵、背景…といった別々の要素を取り払った新しい演出に挑戦してみた話や、さっぽろももこ氏に頼んだ音楽の話、昔よりずっと多い女性ユーザーに訴求するため旭氏が長岡氏を説得した話など、みんなにも読んで欲しい見どころがたくさん!! ぜひ全文をBugBug10月号でチェックしてみて欲しい。
▲ヒロイン二人は敵対しているが、彼女たちを支える男性キャラ二人は仲がいい。主要キャラ4人の中に様々な対照的な関係が成立している
『Geminism ~げみにずむ~』PV
Geminism ~げみにずむ~
CRAFTWORK
2023年11月24日発売予定
AVG、DVD/DL、18禁、Win10/11
パッケージ版:5,720円(税込)、DL版:5,170円(税込)
ボイス:あり、アニメ:なし
原画:長岡建蔵
シナリオ:旭
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