『BugBugクリエイター列伝EX』第2弾は独特の世界観やミステリー系作品で人気のシナリオライター・海原望氏にお話を伺ったぞ!!
先月のBugBugよりスタートして早くも注目を集めている、人気クリエイターにスポットを当てる新コーナー『BugBugクリエイター列伝EX』。第2回では、萌えゲーアワード2022でシナリオ賞を受賞した『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』のシナリオを担当、数々の人気ミステリー系作品で高い評価を受けているLiar-soft所属のシナリオライター・海原望氏に6ページものボリュームでインタビュー!! 特別にその一部をお見せしよう。
▲『BugBugクリエイター列伝EX』第2回のゲストは海原望氏。Liar-soft所属だが他社との共同制作タイトルも多く、プレイした人の記憶に残る作品を数多く手がけている
アワードシナリオ賞受賞ライターも
最初はグラフィッカーでメーカーに入社
──まずは萌えゲーアワード2022において、『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』がシナリオ賞を受賞いたしました。おめでとうございます。
海原:ありがとうございます。率直に嬉しいですね。これまで『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』(Azurite)でゲームデザイン賞、『バタフライシーカー』(シルキーズプラスA5和牛)でミステリアス賞をいただきましたが、シナリオという自分の仕事をピンポイントで評価されたということはとても嬉しいですね。
──やはりシナリオライターとしては、シナリオで評価されたことが一番ですか。
海原:そうですね。とはいえ美少女ゲームは総合芸術ですから。絵がいい、サウンドがいい、声優さんのお芝居がいいとたくさんの要素から出来上がっている中で、『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』はシナリオもいいよねと思っていただけたんだと思います。きっと他の要素から沢山ブーストをいただいたんだろうな、と。
──今回のシナリオ賞は『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』の他には『終のステラ』(Key)と『フタマタ恋愛』(ASa Project)とバラエティーに富んだタイトルになっています。
海原:そうですね。感動系だけじゃないというのは、いいことなのかなあとも思います。でもこう並ぶと『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』はパッと見、どんな作品かわかりづらいですよね(笑)。今回の受賞で知っていただけたら嬉しいです。
──さて本企画「BugBugクリエイター烈伝EX」は、個別の作品ではなく、クリエイターさんご自身に迫るインタビューとなっております。まずお聞きしたいのが、美少女ゲーム業界に入っていらっしゃった経緯なんですが。
海原:もう15年以上前になりますが、当初はグラフィッカーとしてLiar-softに入社したんです。でも最初の仕事は『SHOGUN8』のデバッグでした。その後『Round a GO! GO!』や『赫炎のインガノック -what a beautiful people-』ではずっと塗りをやっていましたね。
──その当時…2007年、2008年の頃のLiar-softといえば、3~4カ月に1本くらいのペースでゲームを発売されていましたよね。
海原:そうです。だからとにかく手が足りなくて採用になったんだと思います。私もとにかく美少女ゲームメーカーで働きたかったんですよ。それで求人を捜していたら、Liar-softさんがちょうどグラフィッカーを募集されていたので応募したんです。
▲もともとシナリオは勉強していた海原氏だが、当時のLiar-softはグラフィッカーを募集しており、そこから入社した海原氏はしばらくグラフィックを担当していた。『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』でシナリオ賞を受賞する約15年前の事である
ライター初作作品はLiar-soft以外!?
多くの作品のサブライターで磨かれた実力
──グラフィッカーとして入社した海原さんがシナリオを書くようになったのは、どういった流れでなのですか?
海原:実はお金をいただいてシナリオを描いた最初の仕事はLiar-softではなく、さっきちょっとお話ししました同人の『学校であった怖い話』なんです。ゲーム制作に際して怪談を募集していて、そこに応募したら結構採用されたんです。もちろんそれは無償なんですが、その後呼び出されまして、「よかったらうちで書いてみないか」と言われたんです。ただ、その時はすでにLiar-softの社員だったんですが、社長に相談したら「やってみるといいよ」と言っていただけて、それでお受けしたんです。
──そうだったんですね。
海原:『学校であった怖い話』はSteamなどでも販売されているんですが、私自身があまり言っていないので、書いていることを知らない人も多いと思います。
──Liar-softでシナリオを書かれたのは、その後なんですね。
海原:最初は『オイランルージュ -花魁艶紅-』ですね。睦月たたらさんが「書いてみる?」って声をかけて下さって、サブライターとして参加させていただきました。その後『屋上の百合霊さん』でも睦月さんに声をかけていただいて、そこからしばらくサブライターとしてゲーム制作に参加するようになりました。
──それにしてもサブライターとはいえ、本当に様々なジャンルの作品を書かれていますよね。
海原:そうですね。私としてはもちろんミステリーやホラーを書きたい気持ちがあったんですが、自分があまり知らないジャンルについて、あれこれ調べて書くのも好きなんです。なのでこの時期はとても勉強になりました。『帝都飛天大作戦』では執筆量が増えて、プロットもガッツリ参加させていただけました。
──個性的な作品ばかりですが、このサブライターとしての経験は大きかったんではないですか?
海原:いくつかの作品を経験することで、自分のできること、仕事のペースなどが把握できたのはあります。これくらいのボリュームでこのスケジュールなら、こういうペースで進めれば……という。
──自信になりましたか。
海原:自信というか、アルバイトがようやく仕事に慣れて来たって感じでした(笑)。これなら一人でも店を回せるかな……って感じです。
▲ミステリーやホラーが好きな海原氏だが、様々な作品のサブライターを経験して知らないことも調べ、より幅広い作風を身に付けていった
メインライター1本目は人気原画家とタッグ
自分の中の「作りたい」気持ちが形に
──そして2015年発売の『フェアリーテイル・レクイエム』が海原さん初のメインシナリオ作品になるんですよね。
海原:はい、企画・シナリオを担当しました。Liar-softではどんな立場の人間でも企画を持ってきていいんですよ。定期的に企画会議が合って、そこで企画を持ち寄って、内容や規模感などを精査し合うんです。実は『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』も最初はLiar-softの企画会議に一度提出したものなんです。ただ、その時には「ゲーム性が強いのと規模感がLiar-softに合わない」ということで採用されなかったんです。
──その企画会議で『フェアリーテイル・レクイエム』は通ったわけですね。
海原:はい。企画もLiar-softっぽいし、規模感もいいんじゃないか、ということで。
──『フェアリーテイル・レクイエム』の企画で大事にしたところというのは、どういった部分でしょう。
海原:私、ノベルゲームが多いこともあってフリーゲームをたくさんプレイしているんです。そこでマルチエンドの楽しさ、世界が少しずつ分かっていく面白さを学んだんです。そういう作品を作りたいなっていうのがありました。それと本作は「自分を童話の登場人物だと思っている人物」がヒロインなのですが、そういうキャラを出す物語というのはずいぶん前から考えていたんですね。そういう自分の中で温めていたものを素直に出した企画になっています。
──これまでサブで欠いていたとはいえ、メインのシナリオライターというのは大変だったのではないですか?
海原:単純に作業量としては、サブライターの方も参加してくれているので、そこまで大変ではありませんでした。ただ、プレッシャーですよね。Liar-softで久しぶりに大石竜子さんが原画を担当されるということで、大石さんのファンは嬉しいでしょうけど、「このライターは誰?」って不安に思うだろうなって。私がファンの立場なら絶対不安ですよ(笑)。そんなプレッシャーを感じながら書いていました。
▲誰にでもチャンスが与えられるLiar-softの企画会議にて、海原望氏が温めてきた企画が採用に。初の企画・シナリオ担当作品の原画が大石竜子さんということで、嬉しいけれどプレッシャーも凄かったようで…
メイン2作目で社外の大きな企画に参加
ここから繋がるシルキーズプラスとの縁
──そして発売リストを見ると、次が『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』なんですね。これはどういう経緯で動いた企画だったんですか?
海原:もともとプロデューサーのトクナガさんの方から、シナリオをLiar-soft、制作をシルキーズプラスで新ブランドのソフトを作りたいという話があったんです。その会議に、私が以前から温めていた『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』を含めて3つ企画を提案したところ、『受信探偵の事件簿』が好感触で、制作が決まったんです。
──それにしてもなかなかのメンバーですよね。発表された際に話題になったのを覚えています。
海原:そうなんですよ!! 原画のはましま薫夫さんは『ユーフォリア』を遊んでいますし、シルキーズプラスさんといえば『肢体を洗う』とか大好きですから。しかも初顔合わせの日に緊張しすぎて最寄り駅を間違えて遅刻してしまうとか、何様なんだって感じですよね(笑)。
──まあでも緊張される気持ちは分かります(笑)。そんなメンバーで、以前から温めてきた企画を制作できるというのは、やはり大事ですよね。
海原:最初に「私でいいんですか?」だったんです。だってキャリアは『フェアリーテイル・レクイエム』しかなかったですから。しかもシルキーズプラスさんといえば万人受けのイメージがありましたから。ただ『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』はシステムが核で、物語はマニアックにも万人受けにもできるものでしたから、そこは調整できるなって思いました。
──いろいろ調整した部分もあるんですね。
海原:当初は群像劇として考えていたんです。それで主人公はメインヒロインの二人のうちどちらかとくっついて、サブヒロインは他の男性キャラとくっつくっていうのを考えていたんですが、「それはアカン」と(笑)。それで主人公は陰キャでやりチンという設定になってしまうんですが(笑)。
──ああ、なるほど(笑)。
▲シナリオをLiar-soft、制作をシルキーズプラスで行ったAzuriteの『シンソウノイズ』。Liar-softで作るには規模感の大きすぎるアイデアが、このようなかたちで製品化するというのはクリエイターにとってもユーザーにとっても嬉しいことだ
他社海外展開企画への参加に百合作品の高評価
作品の幅も広がりユーザー認知度もアップ
──この後に『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』とLiar-softの百合系作品の系譜のようなものが続いて行くわけですよね。
海原:『サフィズムの舷窓』が2001年で『屋上の百合霊さん』が2012年、そして『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』が2022年と、10年周期で百合ものが出ています。ただ、最近は百合ものの企画がなかなか通らないんですよ。
──それは社内の企画会議で、ですか?
海原:というより関係各社との打ち合わせの中で、ですね。やはりセールスの問題で。でも『エヴァーメイデン ~堕落の園の乙女たち~』に関しては、弊社社長が「作っていいよ」とGOサインを出してくれたので、制作することができたんです。この作品はやりたいことがかなり早くから決まっていたんですが、実際形にしてみると考えることが多くて、かなり難産だったんです。それで社長にはかなり心配をかけてしまったんですけど。
──結果として萌えゲーアワード2022のシナリオ賞受賞にまでなりましたので、苦労された甲斐もあったのではないかと思います。
海原:先ほども言いましたように、シナリオの力だけではなく、絵や音楽など、様々な要素があっての受賞だと思っています。でもやっぱり嬉しいですね。
▲確実に固定ファンがいる百合タイトルだが、セールスの関係でなかなか企画が通らないとのこと。それでもGoサインを出してくれるLiar-soft社長の懐の深さに感謝!!
最初のテーマを最後まで持ち込むことを意識
迷って試行錯誤しながらもぶれない大事な芯
──さて、そんな海原さんですが、シナリオを書かれる際に大事にしていることがあればお聞かせください。
海原:本当にできているか分からないんですが、最初のテーマを最後までちゃんと持って行くことです。例えば『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』であれば、だれが最初にヒロインの片方を殺したのかというテーマ、主人公は読心能力は誰の心を読んでいるか分からない、そのことへの葛藤というテーマですね。物語を書き進める中であれこれ考えているうちに見失いがちなんです。毎回迷ってしまうけど、ちゃんと最初のテーマに戻ることは意識しています。
──これはかなりしっかりした意識を持たないと大変そうですね。
海原:書いていくうちに「これは本当に面白いのか」と不安になるんですよね。「もっと複雑な方が面白いはず」とかになりがちで、変にいじってしまう。でも、どうせ書いて行けばなんだかんだと複雑になっていくんだって思い直して、最初のテーマを忘れないようにしています。
──確かに作者が途中でテーマを手放したり見失ったりすると、読者はどうにもなりませんから。
海原:そうなんですよね。それと文章的には私は文章も盛るタイプなんですが、それでも読みやすさは大事にしようと思っています。もちろん「この言い回ししかない」という時はあって、そこは「感じとってくれ!!」って思いながら書いています。
▲ミステリー好きなクリエイターであるほど、筆が乗るほどに「もっと難解なほうが面白いのでは?」という気分になるのだろう。それを常に自覚し、最初のテーマからぶれないことを海原氏は大事にしている
その他の作品に関わることになった経緯は!? 普段はどんな風に仕事を!? 本誌ではさらに深く濃い内容が!!
まだまだ海原望氏が関わったタイトルについてのお話はあるのだけど、なにせ6ページにも渡ってびっしり詰め込まれたインタビューを全部は紹介しきれないので、ぜひBugBug8月号本誌で確認してね!! その他の作品に関わることになった流れや、リモートワークによる作業環境の変化など、興味深い業界話がたくさんだぞ。さらにBugBug編集部も、このインタビュー、そして海原望氏の作品をより一層楽しんでもらえるように、イチオシ作品紹介や、付録DVDには海原氏がシナリオを担当した5作品を紹介する動画を収録!! まだ海原氏の作品に触れていない人はぜひこの機会にハマってみよう♫
▲今回抜粋した部分では載せられなかったが、『バタフライシーカー』も海原氏の代表作のひとつだ。羽鳥ぴよこ氏の可愛い絵柄と海原氏のミステリアスなシナリオ、その相乗効果を実際にプレイして体験してほしい
▲PCがなくてもDVDで海原氏がシナリオを担当した5作品のプレイ動画をチェックできるぞ!! 付録DVDはデジタル書籍版にはついていないのでそこは注意
関連記事 美少女ゲーム発のミステリアス百合AVG 女学生たちによる耽美なガールズラブと先が読めないストーリーは必見だ!! 美少女ゲームブランドのライアーソフトからリリースされた同名作品が、PlayStation ... Liar-softの最新作は海原望氏×大石竜子氏のタッグで描く百合ミスティックホラーAVG 今回レビューします『エヴァーメイデン』は、女のコ同士の恋愛…いわゆる“百合”を描いた作品です。美しょゲーでは ... ファン待望の百合ミスティックホラーAVG新作についてキーマン二人に直撃!! Liar-softの最新作は、『フェアリーテイル』シリーズで好評を博したシナリオ・海原望氏&原画・大石竜子氏のタッグ ... 黒の少年と白の少女が巡るお伽噺の世界 2020年6月に2作同時にデビュー作をリリース予定のANIPLEX.EXE。制作をLiar-softが担当する『徒花異譚』は、お伽噺の世界を舞台にした和風ビジュア ...
外部と隔絶した女学園を舞台に紡がれる少女たちの恋と怪しい謎…耽美な百合の世界を描く『エヴァーメイデン』がエンターグラムよりSwitch&PS4で好評発売中!!
男は出てこない純度100%百合ゲー!! 閉ざされた女学園で起こる不思議な事件&異能バトル&女のコ同士の恋愛を描くLiar-soft最新作『エヴァーメイデン』体験版レビュー
【BugBug】Liar-soft新作『エヴァーメイデン 〜堕落の園の乙女たち〜』を2月号にてシナリオ・海原望氏&原画・大石竜子氏インタビュー付き大特集!!
話題の新ブランド・ANIPLEX.EXE第一弾!! Liar-soft制作の幻想的な和風ノベル『徒花異譚』【6/12更新】