令和の世になっても鮮やかに蘇るアリスソフトの傑作SLG『大悪司』の記憶
「アリスソフトの代表作といえば?」。こんな質問をされたとしたらアナタはなんと答えますか。人によって好き好きがあるでしょうが、分別ある大人の正答は『ランス』ですよね。もう一昨年になりますが、シリーズ完結作の『ランス10』が出た時の盛り上がりはまだ記憶に新しいんじゃないでしょうか!! 『ランス01』から『ランス03』までのリメイク作品の評価も上々ですし、まさにアリスソフトの看板に相応しい傑作シリーズです。他にも『闘神都市』、『ぱすてるチャイム』、『超昂天使エスカレイヤー』(そういえばブラウザゲーの『超昂大戦』が今年リリースだとか)、最近だと『イブニクル』などが思い浮かびますが、やはり「アリスといえばランス」というのは真理でしょう。では、これが「猿のようにやり込んだアリス作品は?」という設問だったら…。ここでも『鬼畜王』や『戦国』といったランスシリーズが顔を出すのは間違いないところですが、分別のない大人である私は声を大にして答えたい。『大悪司』であると!!
▲悪司のオオサカ制覇はこの奉仕青年団を“こます”ところから幕を開けるのです!!
『大悪司』は『ランス5』が頓挫する中で制作・発売された作品でした。…と書くとあんまりイメージが良くないですが、実際のところは『鬼畜王ランス』に続くアリスソフトの“地域制圧型シミュレーション”として宣伝され、大々的に期待された状況下にありました。また、2001年といえば『家族計画』、『鬼作』、『君が望む永遠』、『水夏 ~SUIKA~』など、これまた名作ぞろいの当たり年。『Piaキャロットへようこそ!!3』にいたっては、発売日を『大悪司』と同じ11月30日に設定するなど、業界の盛り上がりもあって、ハードル爆上げという中の発売だったんです。が、その通天閣よりも高くそびえるハードルを越えてきたのが『大悪司』。BugBug本誌の「2001年美少女ゲーム年間ランキング」でも、総合1位、ゲーム性部門1位、サウンド部門1位と、圧倒的な強さを発揮しました。これ、11月発売なのに凄くないですか?
▲ちなみにこの「地域制圧型シミュレーション」というなじみ深い言葉、実はアリスソフトが最初に提唱したんだとか
STORY
圧倒的な科学力を武器に女性上位主義を強制する新興国家ウィミィは、男性至上主義国家ニホンを降伏へと追い込んだ。──太平洋戦争の敗戦から一年、オオサカで隆盛を誇る地域管理組合「わかめ組」の跡取りがニホンの土を踏む。その男の名は山本悪司(やまもと あくじ)。だが、その帰宅は祖父・一発(いっぱつ)の愛人であり、わかめ組組長となった市橋蘭(いちはし らん)によって阻まれる。こうなったら、わかめ組を奪回し、オオサカに覇権を唱えるしかない。たまたま通りがかった青年奉仕団を自慢のエロテクとたこやきの腕で懐柔。ここを本拠地として、まずはわかめ組とのケンカを決意した悪司であった。
▲地域管理組合といえば聞こえはいいですが、まあ、あれですよ。足して20になる数字で表されるあれですよ
戦後復興期の日本を舞台にしたことで醸成された「何でもあり」な空気感
当時、ソフトを起動させて真っ先に刺激を受けたのが独特の空気感でした。ニホンとウィミィの戦争が“太平洋戦争”だったことからも分かるように、舞台設定は戦後復興期の日本。復興期だからこその暴力、クスリに人身売買など“何でもありな空気”をベースに、極道・進駐軍・宗教団体などが争うという混沌っぷりは、美しょゲー界ではなかなか見られなかった設定でした。図書館で読んだ『はだしのゲン』の世界が目の前にあるような。例えば現代だったら簡単に“誘拐”なんて言葉を出しても「どーせすぐ捕まるだろ」くらい別世界の話ですが、それが「これはヤバイ!! 誘拐された女の子は間違いなく犯されて、もう戻ってこないかも…」という絶望するような真に迫るリアリティというんでしょうか。『大悪司』には間違いなくそれがありました。しかも、エッジの利いたビートを刻む男くさいBGMが、任侠の世界を強烈に意識させてくるわ、ドライに任侠道を突き進む山本悪司の行動理念なんかも新鮮で。ゲーム性が語られることが多い作品ですが、名作ぞろいのサウンドは今聞いてもGOODです!!
▲悪司の最初の敵となる市橋蘭。どさくさに紛れて「わかめ組」を乗っ取るとかいかにも混乱期らしいスタートです
アンチヒーローといえば『ランス』シリーズのランスを外すことはできませんが、例えば凌辱に嫌悪感を表したり、男キャラを殺す時も“サクッ”とやったりして、そこに残虐とか悪辣といった表現は薄いんですよ。ところが悪司の方は必要とあれば女だろうと、自分を頼ってくるやつだろうと、平気で海に沈められる極道としての実利主義。反面、自分の身内になった相手に対しては、そこに実利が無かろうが自身を顧みずになんとかするという美学。二律背反ともいえる行動のすべてが、「これが悪司だ」といえる、ぶれず、熱く、強い、アンチヒーローなんですよ。実際、プレイしている間、どれだけ悪司の行動にガッツポーズをしたか。その言葉に目がしらを湿らせたか。この熱さはぜひプレイして実感して欲しいです!!
▲メインヒロインの一人、喜久子に「辛かったら遠慮せずにそう言えよ」と優しい言葉をかける場面も
▲「死刑」と言い放ち捕虜を射殺。このドライさがランスとは違ったアンチヒーローらしさを演出してます
卓越したバランスとやめられない止まらない中毒性のあるゲームシステム
本作を語るうえで…いや、「なぜ一般受けしなそうな題材なのにここまでの支持を得たのか」の答えという意味で、卓越したゲームバランスと手を止めることのできないやり込み性を挙げないわけにはいきません。この辺は『大悪司』が初めてという人や、昔すぎて記憶が飛んでる大人に向けて、システムの説明を入れながら振り返りたいと思います。
▲画面サイズは640×480とさすがに時代を感じさせますがフルスクリーンでプレイすればそこまででも
まずゲームの舞台になるのはニホンのオオサカです。35の地域に分割されていて、それぞれがいくつかの組織に支配されている状態。悪司たちはミドリガオカの奉仕青年団事務所を拠点に、オオサカ制覇を目指して敵対勢力を倒していくという、地域制圧型SLGですね。一ターンは一週間となっていて、その間にイベント→収支→捕虜→情報→地域→部下→調教→移動→戦闘→他組織という九つのフェイズが順番に回ってきます。やることは多いのですがフェイズで区切ってくれているので、その都度頭を切り替えて整理できるのもテンポよくプレイできる秘訣かなと。
▲35に分けられたオオサカの全地域制圧を目指すSLG。あらゆるところでイベントが発生してますねえ
PICK UP
「調教の館」の生々しさ!!
捕虜にした女キャラを「調教の館行き」にして、ここで娼婦に仕立て上げるという、本作を体現するシステムです。調教すると素人から娼婦、上級娼婦、穴奴隷へとグレードアップして稼ぎも上がるのですが、娼館に立たせすぎると稼ぎが下がっていくという生々しさ!! しかもこれが主な収入源というね。加賀 元子とか由女といったメイン級のヒロインが1万しか稼げなくなる姿を見て悲哀を感じ、バーバラ Maを娼婦にして誰に需要があるのか黄昏れる。これぞ人生ですよ。何を言ってるのか分からない人も、プレイしたら理解してくれるんじゃないでしょうか!!
▲名前ありキャラも汎用キャラも女の子だったらほぼ調教の館に放り込めるという自由度に乾杯!!
▲調教といえばやっぱりタマネギですよね。『ランス』シリーズにも出演しているアクの強い調教師なのです
PICK UP
単純なのに腕の差が出る「バトル」
戦闘フェイズで敵と戦闘になると、その地域にいるユニットが6人vs6人で戦うバトル画面に突入。ここでは敵と味方が一体ずつ攻防を行い、全ユニットが行動するまで繰り返して勝敗を決します。攻撃が当たれば攻撃力分だけ体力が減るという単純なバトルではありますが、気力がなくなると行動できなくなったり、攻撃距離によって攻撃が届かなかったりといった複合要素が絡むので一筋縄ではいかないんですよ。
▲容量の関係で画像が小さくなりましたがバトルはこんな感じ。ちびキャラが動く姿もかわいいんですよねえ
さらに、“敵の体力を一定値以下に減らした状態で戦闘終了すると捕獲できるシステム”が立ちはだかります。体力を0にしちゃうとキャラは消滅するし、体力は0に近いほど捕獲確率が高くなるしで、好きなキャラを捕まえるのにどれだけの苦労(リセット)をしたことやら!! 手加減攻撃を持っているユニットがいるのに、気力が0になってて使えないなんて失敗が、どれだけのプレイヤーの嘆きを産んだことでしょうか!! でも、だからこその達成感はハンパないですし、絶妙なバランス設定に「さすがはアリスソフト」という声が上がるわけです。
▲捕獲するためにはわざと撤退することも大事!! 体力0になったら完全に消滅しちゃいますからね
とまあ、フェイズをこなしてイベントを発生させターンを進めていくという流れはお分かりいただけたでしょうか。最初にプレイした時はちっともうまくいかなかったのに、慣れてくるにつれてできることや仲間が増えて、新しい展開が見えてくる快感。バトルでのちょっとした工夫とか、経費を抑えるテクニックとかいったものが少しずつ身になっていくのが実感できると、ゲームを何周でも何度でもやりたくなるんだと気づかされました。キャラの育成をしながら自分も育成されている感じ。この辺の匙加減ってアリスソフトは本当に上手ですよね。
▲最初はもう、本当にあっけなくゲームオーバーになるんですよ。これが悔しくて悔しくて!!
本筋のストーリーの他、一周目のプレイでは白 民華、加賀 元子、乃木 喜久子の3人、二周目以降のルート次第では岳画 殺、プリシラ Va、アンリ Peとも結婚できるので、それも楽しみにしてプレイしたものです。周回するのに「面倒だな…」と思わせず、「次のプレイではこうしてやる!」と思わせるのって、そう簡単じゃないんですけどねえ。
▲結婚するとメインヒロインの名字が「山本」に。ちなみに民華と結婚すると彼女以外とエッチできません
悪司を含めた個性と魅力が詰まった登場キャラクターたちに刮目せよ!!
そうそう、男女問わずに立ったキャラが登場するのも『大悪司』のポイントです。しかも、当時の“ザ・アリスソフト”ともいうべき原画家さんが総登場で手掛けるわ、それぞれにかぶる事のない個性を持たせるわで、一部では圧倒的な人気を誇ったキャラが出たほどでした。他作品からのゲストキャラなんかもいて、お祭り感も最高だったなあ。
▲どこからどう見ても『ランス』シリーズに登場するかなみです。残念ながらエッチはできません
▲全部で15体いるセヤダタラシリーズのNo.14。『ランス』に登場するのはNo.12だそうです
そんな中で誰か一人キャラを選ぶとなったら、迷わず殺ちゃんこと岳画 殺を推しますね!! まずは造形。シルエットでもこれだけで「殺ちゃん」と分かる6本のアホ毛もたまらんですし、性格をそのまま表に出した冷徹な表情もイイ。そして何より120cmの低身長なのに威厳溢れるセーラー服姿。凛々しい!! お姫様抱っこされたい!! こんな見た目で13歳なのに悪司の叔母で、なおかつ古風な物腰と、どんな強者にも立ち向かえる覚悟を宿しているんだからもうね。可愛くてカッコよくて渋くて頼り甲斐があってそして強いのに小動物に弱い。あれ? もしかして主人公?
▲眉毛も血筋に違わず途中から二つに分かれていますね!! ユニットとしてもかなり優秀です
▲たまに言う冗談に悪司が乗ってきても、その無言の圧によって気圧されてしまうオーラの持ち主
悪司を諭すサマとか、任侠道を説く姿勢とかも心が震えます。巨大な権力にも屈しない行動を選択した悪司に「よく言ったぞ」とねぎらうシーンなんか最たるものですね。彼女の名ゼリフ「死ぬがよい」は今でも殺ちゃんの専売特許で、他作品のゲスト出演時にはお約束。そこにきて殺ちゃんの代名詞ともいえるロケットランチャーを構えるお姿が、ギャップ萌えの心を大いにくすぐるわけですよ!! 実際、BugBug本誌の人気投票ではたびたび一位に輝いていましたし、2001年美少女ゲーム年間ランキングでも『大悪司』登場キャラでは堂々の一位(全体8位)。ちなみにルート入りすると18歳になるので大丈夫なところとかも好き。
▲酒を飲むと恐ろしいことになるらしい殺ちゃん。あ、ここは18歳時空が発生しているので大丈夫です
▲ゲーム内である条件を満たすと見られるご褒美CG。ここでようやくブルマ―姿が拝めて幸せです♥
悪司以外の男キャラも変な奴から男が惚れそうな漢まで充実!! ユニットとしての性能も加味されちゃうのはゲームのシステム上、仕方がないところですが、やはり任侠魂あふれる大杉 剛や加賀 太郎、死に場所を求める長崎 旗男なんかは実に印象に残っています。あー、あと熱血不良少年の鬼門 始とかいましたね!! 最初は貧弱なのに悪司をライバル視して成長。最終的には強キャラの仲間入りをするとか、実に育成しがいのあるキャラでしたわ。あと汎用キャラを頑張って育成したりして、自分だけの強キャラを作ってキャッキャできたのも本作の懐の深さです。
▲戦場に出してあげないと死を選んでしまう長崎。そうそう、未亡人とくっつけるイベントがあったような
▲いや、鬼門はうざいんですよ!! でも目を見張るほどに成長するんでうざくても使わざるを得ない…
PICK UP
先人の熱量が詰まった「キャラクリ」
本作がやり込みゲーとしても高評価な要素のひとつに「キャラクリ」があります。これは、汎用キャラ以外のほぼすべてに用意されていて、条件を満たすことでエンディング後にエピローグを楽しめるというもの。これが78人分もあって、条件も仲間にしていればOKなものから、あまりに複雑なものまで多種多彩!! この一つ一つをクリアするために、全国の猛者たちが寝る間も惜しんで没頭し、情報を交換し、それをまとめあげたのは、本当に歴史を動かしている感があって熱かった!! この作品にプレイヤーとして関わっている人たちの熱量を感じられたのは、発売時にリアルタイムでプレイしていないと得られない特権でした。そういえば、こういった攻略サイトを見ながらプレイしても面白さが薄れないというのも稀有な存在ですね。
▲ちょっとしたエピローグでも各キャラへの愛情がグッと増すってもんです。ユニット性能も強くなりますよ
拷問&凌辱が多い『大悪司』のエロシーン。だからこそこのアクの強さが魅力になった
先に述べたように任侠の世界を描いた本作では、拷問・凌辱エロがメインです。これには当時も賛否両論ありましたけど、『大悪司』のもつ退廃的な空気を堪能するにはこの路線じゃないとダメなんですよ。愛しい人が浚われ犯される、想い人がいるのに想いは届かず輪姦される、強い権力を持つ者になすすべもなく蹂躙される。こんな悲惨な状態を見せつけるからこそ、その道を切り開いた先が輝かしい。
▲メインヒロインの一人、加賀元子輪姦。これを見てすぐに元子を助けるためにどうしたらいいか考えました
▲刺激の強いエロシーンは悪司ではなく、何らかのイベントで発生するパターンが多いのも救い?
プレイヤーも、この娘にこんな悲惨なことが起こらないように、どうやって行動すればいいんだろうと模索する。それもこれも、キャラクターに魅力がなければ成り立たないわけで、その一面を見ても驚異的なバランスの上に成り立っていたんだなと思いますね。最初にプレイした時に見た、加賀元子輪姦の衝撃は今でも忘れてません。ただ酷いだけ、ただ暴力的なだけでは終わらない、可哀想な女の子を思う存分に満悦できるエロさというのは、現在でも通じるんじゃないでしょうか。
▲女の子たちを見て「可哀そう」と思ったら、それは製作者の術中にはまっているというわけです
▲凄惨で暴力的なエロシーンが多いのは本作の大きな特徴。彼女たちを助けたいという思いもプレイの原動力
8月11日までの期間限定!! 『大悪司』がFANZA GAMES「サマーセール2020」500円セール第4弾に登場!!
アニメ化、小説化、コミック化などなど、アリスソフトとしては珍しく多岐にわたったメディアミックス戦略が見られたのも、本作の人気とキャラクターたちの魅力を顕著に表しています。今回、手元に残っていた2002年2月24日3時30分のセーブデータをロードした瞬間、込み上げてきた熱い想い。セーブデータを残しておくほど手放したくなかったプレイの思い出。かつてそこまで入れあげた傑作が、FANZA GAMES「サマーセール2020」500円セール第4弾(7/30~8/11)に登場したとあっては、黙っているわけにはいきません!! 今プレイしても、軽く数十時間…いや、数百時間の時間泥棒をしてしまうこと必須のやり込みゲーが500円ですよ? 軽い気持ちでプレイして、その時間泥棒っぷりを実感してみるのもいいんじゃないでしょうか。19年前にプレイして昔を思い出した人も、名前しか知らなかったけどちょっと気になる存在だった人も、ぜひ手を伸ばしてみてください!!
▲こちらが残しておいたセーブデータ。2001年11月30日のタイムスタンプって、よく考えたら発売日じゃないですかー!!
大悪司
アリスソフト
2001年11月30日発売
SLG、DL、18禁、Win8/10
500円(8月11日までFANZA GAMES「サマーセール2020」期間限定価格)
ボイス:なし、アニメ:なし